人間ドックは必要ない? 医者が教える「いい健診、悪い健診」〈週刊朝日〉2019年9月

病気は誰しも怖い。健康診断で早めに気づいて治したいものだが、種類や検査方法は様々だ。基準値が厳しく、みんなが病人にされかねない問題もある。がん検診には有効な検査と、なかには医者が勧めないものもある。医者が教える“いい健診”と“悪い健診”の見分け方を紹介しよう。

 職場や自治体の無料健診で何か異常を指摘され、精密検査を受けた人は多いだろう。人間ドックやがん検診を受ける機会もある。

 検査結果を受け取ると、血圧やコレステロール、血糖値などの数値にどうしても「一喜一憂」してしまう。異常がないのはうれしいことだが、健診や人間ドックの結果をうのみにすることは問題だ。有効性に疑問を示す医師も少なくない。

 例えば血圧では、「正常範囲」が厳しすぎるという注意点がある。日本高血圧学会は4月から、正常血圧の範囲を厳格化。収縮期120mmHg/拡張期80mmHg未満とし、14090以上を高血圧としている。日本人の約4千万人が高血圧に該当する。

『健診・人間ドックはもうやめなさい!』などの著書がある医師で山野医療専門学校副校長の中原英臣さんは、血圧測定の必要性は認めながら、こう指摘する。

「世界トップクラスの平均寿命を誇る国で、これほど多くの人が高血圧にされてしまうような基準値は異常です。基準値に年齢差も性差もないこともおかしい。血圧は加齢とともに高くなっていくのが普通です。1960年代までは日本人の年齢別平均血圧の出し方は『最高血圧=年齢+90』とされていました。上の血圧が170とか180もあれば降圧剤を飲まなければならないでしょうが、140を超えたら飲む必要があるのか。厳しすぎる基準値で“病人”を増やし、病院や製薬会社の利益に貢献させられているのです」

 コレステロールも同様に基準値が厳しいようだ。中原さんは、「コレステロール値は少し高めのほうがむしろ死亡率は低い」という。

 病気の予防や死亡率の低下に、本当に役立つ検査は限られる。厚生労働省の研究班が2005年に発表した報告書は多くの検査項目について、「有効性が薄い」との評価をまとめた。γ‐GTPなど肝機能の数値だけでは、アルコール性肝臓病やウイルス性肝炎が見落とされることもある。心電図の測定やコレステロール値も心筋梗塞(こうそく)の予防に役立つ根拠はなかったという。

有効性が認められたのは身長・体重の測定、血圧の測定、糖尿病検査、飲酒と喫煙に関する問診、うつ病を調べる問診の6項目だけだ。健診にかかる費用は巨額なだけに制度の意義が問われる。

 有効とされた糖尿病検査も、肥満などが原因の「2型糖尿病」の場合は要注意だ。『65歳からは検診・薬をやめるに限る!』の著者で、武蔵国分寺公園クリニック院長の名郷直樹さんはこう指摘する。

「糖尿病治療の本来の目的は、失明の大きな原因である網膜症や、腎症、心筋梗塞、脳卒中など合併症を防ぐことです。けれども、インスリンなどで血糖値を下げてもなかなか合併症は減りません。薬で無理やり下げると低血糖で意識障害などになる危険性が高まります。糖尿病の早期発見・早期治療の寿命に対する効果は、期待されるほど大きくはないことが、これまでの研究結果から明らかです」

 糖尿病は進行が遅く、治療をしなくても合併症にならない人もいるという。名郷さんが続ける。

「基準値(HbA1c4.66.2%)を目指すような厳しい血糖コントロールより、あまり神経質にならず7%台をキープしながらたまにはおいしいものを食べるのが、糖尿病との賢い付き合い方です」

 健康増進法に基づき、対策型で行われているがん検診は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの5種類だ。なかには効果が期待しにくい検査もある。

 肺がん検診では胸部X線検査が行われているが、早期がんを見つけることはきわめて難しいという。前出の中原さんが解説する。

「もともと結核の発見に貢献してきた検査方法ですが、いまや結核患者が激減し、その目的を失っています。いつのまにか肺がんの早期発見という名目になりましたが、胸部X線では早期がんは見つけられず、むしろ放射線被曝のほうが心配です。CT検査では見つかる可能性は高まっても、被曝量はさらに増える。発がんなど健康被害リスクが高まります」

 胃がんもバリウムを飲む胃部X線では早期発見は困難で、やはり被曝のほうが不安だという。中原さん、名郷さんともに「個人で、内視鏡検査を受けるほうが確実」と口をそろえる。

 早期発見することが、「過剰診断」につながるケースも。前立腺がんや甲状腺がんなど進行の遅いがんは死に至るまで数十年かかる。その前に心筋梗塞や脳卒中など別の病気で亡くなることがよくあるという。65歳以上の高齢者は人間ドックやがん検診の必要性は低い。

早期にがんを見つけると、治療の副作用に苦しんだうえ多額の費用がかかる可能性もある。一部の乳がんも当てはまるといい、名郷さんは警鐘を鳴らす。

「検診で乳がんが見つかった人は、検診以外で見つかった人より別のがんによる死亡率が2.42倍高いというデータがあります。抗がん剤や放射線治療が行われたために、別のがんが増える危険性もあるのです」

 これでは何のためのがん検診なのかと思えてくるが、受けておいたほうがいいものもある。中原さん、名郷さんともに勧めるのが大腸がんと子宮頸がんの検診だ。心配な人は受けてみよう。

 早期の脳梗塞を見つけるために脳MRI(磁気共鳴断層撮影)の検査を受ける人もいる。言語障害や手足のまひなどの症状がない「無症候性脳梗塞」を見つけられるというが、名郷さんは否定的だ。

MRIを撮っても脳梗塞は予防できません。無症候性脳梗塞は70代で3割、80代で45割の頻度で見つかります。診断された人はどんな治療を受けるのかといえば、血液をサラサラにするためにアスピリンを飲まされます。そうすると脳出血や消化管出血の危険性が、脳梗塞の予防効果を上回ります。未破裂動脈瘤(りゅう)を見つけるのはいいのですが、小さいものは経過観察になります。患者さんは不安と憂鬱(ゆううつ)にさいなまれて日々を過ごすことになります。検査のメリットばかりでなく、デメリットにも目を向けたほうがいいと思います」

 医療技術が飛躍的に進歩したことで、発見が遅れたがんも克服されるようになった。本当に役立つ健診やがん検診を、私たちが見極めるべき時代になっている。

 

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