心血管を健康に保つ方法、宇宙からの教訓

元宇宙飛行士のJohn Glenn氏は1962220日、米国人として初めて地球周回軌道を飛行するという偉業を成し遂げた。しかし、打ち上げから30分後、彼がザンジバル諸島の上空辺りで、大気圏外で初めてトレーニング機器を使って運動したということはあまり知られていない。

 このマシンはMA-6 インフライト・エクササイズ・デバイスと呼ばれ、ベルトをバンジー・コード(伸縮性のあるロープ)とハンドルにつなげたもの。Glenn氏がトレーニングを行っている間、心拍数と血圧が測定された。

 この事実はGlenn氏が成し遂げた壮大な飛行と比べれば小さなことかもしれない。しかし、これをきっかけに、「人の心血管系は宇宙にどのように適応するのか?」「宇宙でも心血管を健康に保てるのか?」という疑問が持たれ続けてきた。そして、2問目の回答は、“どのような環境でも健康的に長生きしたいなら、活動的であり続けるべきだ”という、全ての人の教訓となるものだという。

 無重力空間での生活は楽しそうに見えるかもしれないが、重力がないため、血液が上半身に溜まりやすくなり、心臓に負担がかかる。米ペンシルベニア州立大学運動生理学准教授で、元宇宙飛行士のJames A. Pawelczyk氏は「フライト中の宇宙飛行士の顔を見れば、むくんでいることがはっきり分かるはずだ」と指摘する。同氏は、1998年にスペースシャトル・コロンビア号で16日間、地球の周回軌道を飛行した時に、乗組員が皆、細くなった足の皮膚をつまみ上げて面白がっていたことを今でも覚えているという。

 また、宇宙飛行士たちの中には筋肉の萎縮や骨密度の低下といった問題を経験し、急速な老化現象のような変化が見られることもある。

 これまで、宇宙空間で心血管系に関する先駆的な実験を行ってきた米テキサス・ヘルス・プレスビテリアン病院の運動・環境医学研究所所長であるBenjamin Levine氏による研究の一つに「ベッドレスト(長期の寝たきり)実験」がある。被験者に、地上でわずかに後ろに傾けたベッドの上に寝てもらい、無重力空間が体液の流れに与える影響を再現したところ、被験者の心筋は週当たり約1%萎縮したことが分かった。

 また、Levine氏らは、ベッドレスト実験中の被験者の一部にローイング運動をしてもらい、運動しなかった人と比較した。その結果、寝たきりで過ごした人の心臓は予想通り萎縮して硬くなったのに対し、運動した人にはそのような変化は全く認められなかった。その後、運動によって心筋萎縮は防げることが、国際宇宙ステーションの乗組員についても確認された。

 なお、これらの研究結果は20197月に「Circulation」誌で報告された。Levine氏らの他の研究では、3週間寝たきりで過ごすことが身体能力に与える影響は、30年以上の老化による影響を上回ることが示されている。同氏は「地上でも宇宙空間でも、多くの心臓の問題は運動することで予防できる可能性を示すものだ」と説明している。

 しかし、運動でも防ぎきれない心臓の問題もある。そのため、定期的な検査を必要とする点は地上と宇宙空間で共通している。Levine氏は「全ての宇宙飛行士の健康状態が完璧であるわけではない。宇宙飛行士には中年期の男女が多く、例えば、3年間の火星探査のミッション中に急性冠症候群を起こすという最悪の事態も考えられるため、健康診断は不可欠だ」と述べている。

 ただし、総じて心臓は宇宙空間でもうまく機能する。実際、これまでの宇宙船プログラムにおける死亡例の100%は乗り物の壊滅的な破損に起因したものだという。

[2020
220/American Heart Association] 

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