スタチンは高齢者の脳に有害ではない?

コレステロール低下薬のスタチン系薬(以下、スタチン)が思考力や記憶力の低下をもたらすのではないかという広く行き渡った懸念には根拠がないことを示唆する新たな研究が、セント・ビンセント病院(オーストラリア)のKatherine Samaras氏らにより発表された。研究では、認知症リスクのある一部の人では、アトルバスタチン(商品名リピトール)やロスバスタチン(同クレストール)などのスタチンにより記憶力や認知機能が改善する可能性も示された。詳細は「Journal of the American College of Cardiology1118日オンライン版に発表された。

 心疾患や脂質異常症などの治療でスタチンを使用している人は何百万人もいる。しかし、スタチンが記憶力の低下をもたらすことを示唆する複数の研究結果が報告されたことを受け、米食品医薬品局(FDA)は2012年、全てのスタチンに対し黒枠警告の表示を指示した。

 Samaras氏らは今回、高齢者の認知機能に関する研究(Sydney Memory and Aging Study)に参加した7090歳の男女1,037人のデータを用いて、スタチンの使用と記憶力や認知機能の低下との関連を調べる研究を実施した。対象者のうち約600人がスタチンを平均9年にわたり使用していた。

 研究開始時に全ての参加者が情報処理速度や言語能力などの記憶力や認知機能の検査を受けていたが、スタチンの使用者と非使用者の間に差は認められなかった。また、一部の参加者はMRI検査で脳容積を測定したが、2年にわたってスタチンの使用者と非使用者の間に脳容積の有意差は認められなかった。さらに、6年にわたってスタチンの使用者と非使用者の間に記憶力や認知機能の有意差は認められなかった。

 一方、研究期間中にスタチンの使用を開始した99人では、スタチンは記憶力低下の抑制に関連していることが明らかになった。また、予測通りの結果ではあるが、心疾患患者ではスタチン使用により心筋梗塞リスクが低下していた。さらに、心疾患患者では、スタチンの非使用者と比べて使用者で記憶力の低下が緩やかであることも示された。

 そのほか、心疾患や糖尿病など認知症のリスク因子を有する高齢者において、スタチンの非使用者と比べて使用者では認知機能低下の進行が遅いことも分かった。また、アルツハイマー病リスクを高める因子であるAPOE4遺伝子を有する高齢者においても、スタチンは認知機能の低下を有意に遅らせることが示された。なお、心疾患のない高齢者における記憶力の低下率は、スタチンの使用者と非使用者で同程度であった。

 こうした結果を受けSamaras氏は、「高齢者の大規模集団において、6年にわたって記憶力を含むさまざまな側面で認知機能の低下は見られなかった」と結論付けている。ただし、同氏らは、この研究が観察研究であることを強調。「強い関連が認められても決定的な結果とみなすことはできない」として慎重な解釈を求めた上で、「スタチンを使用している人で、同薬が記憶力や認知機能に悪影響を与えるのではないかと不安に感じている人がいれば、かかりつけ医に相談すべきだ。ただ、全般的に今回の研究では極めて心強い結果が得られた」と話している。

 この研究の付随論評の著者の一人で、米ウェイル・コーネル・メディシンのCostantino Iadecola氏は、脳は80%が脂質であるため、脂質の変化に非常に敏感であるとし、「コレステロールを調節すれば脳に影響が及ぶのは驚くべきことではない」と話す。ただし、同氏は「スタチンの認知機能に対する保護作用に関しては、さらなる研究で検証する必要がある」との見解を示している。

[20191118/HealthDayNews]