人工神経で脳の障害部位をバイパスして手に接続――脳卒中後遺症に光

本来は手の動きを司らない脳部位と手の筋肉を人工神経接続システムでつなぎ、麻痺した手を動かせるようにする技術が開発された。公益財団法人東京都医学総合研究所の西村幸男氏らによる研究の成果によるもので、詳細は「Nature Communications」に1016日オンライン掲載された。

 西村氏らが開発した人工神経接続システムは、脳の神経細胞と似た役割をするコンピューターを用いて、脳に近い側の神経細胞の情報を受け取り(入力)、その情報を末梢側の神経細胞へと伝える仕組み。脳表面の複数の領域からの電気信号を記録し、記録された信号から特定の脳活動を見つけ出して、脳活動パターンを検出。その脳活動パターンを電気刺激に変換し、筋肉へ伝えることができる。

 今回の研究では、脳梗塞を発症したモデル動物を作成。上下肢の片麻痺のある状態で、神経経路が損傷している部位を人工神経接続システムによってバイパスし接続させた。すると、システムを使い始めてからおよそ10分で、麻痺した上肢(手)を自分の意思で動かすことができるようになった。

 さらに、顔や肩の運動を司る脳領域から人工神経接続システムに入力しても、手の運動をコントロールできた。また、もともとは運動機能を持たずに感覚機能を担う体性感覚野という領域に接続しても同様に、手を動かすことができた。これは、脳のどの領域であっても運動野手領域として、新たな役割を担わすことができることを意味する。

 このほか、このような変化の過程において、人工神経接続システムへの入力の源になる大脳皮質の脳活動は、麻痺した手の運動が上達するのにあわせて手の運動を司る脳領域が小さく集中するような適応が起こることも観察された。西村氏らは脊髄損傷モデル動物を用いた以前の研究で、人工神経接続システムの有効性を確認しているが、今回の研究では脳自体を損傷した脳梗塞モデル動物でもこのシステムが神経経路の代わりになることが示された。

 今回の研究の成果について同氏は、「コンピューターと脳とを融合させる医工学によって新たな治療の可能性が開かれた」とし、「今後は、長期にわたる人工神経接続システムで脳損傷・脊髄損傷から免れた神経のつながりを強化し、人工神経接続システムがなくても身体を自分の意思で動かせるように回復できるかどうかを検証する必要がある」と述べている。

[20191028/HealthDayNews]

少量飲酒の影響は脂肪肝の有無で異なる

少量の飲酒は体に良いと言われるが、脂肪肝の有無でその影響が異なる可能性を示す研究結果が「Biomedical Reports11月号に掲載された。男性において脂肪肝がある人では少量の飲酒に良い面がある一方で、脂肪肝のない人では高血圧のリスクが高くなるかもしれないという。

 市立福知山市民病院消化器内科の原祐氏らは、定期健康診断の受診者データを基に、少量の飲酒習慣の影響を脂肪肝の有無別に検討した。対象者は20171年間の男性の健診受診者2,096人から、酒類を1日にアルコール換算で20g以上摂取している人や肝炎患者などを除いた1,190人。このうち505人(42.4%)が非飲酒者、685人(57.6%)が少量飲酒者で、腹部超音波検査により561人(47.1%)が脂肪肝と判定された。

 まず、非飲酒者と少量飲酒者を単純に比較すると、年齢やBMI、喫煙者率、高血圧の有病率、尿酸値、ASTALT(肝機能の指標)などは有意差がなかった。脂質異常症やIGT(糖尿病予備群)、脂肪肝、CKD(慢性腎臓病)、MetS(メタボリックシンドローム)の有病率、HbA1c(糖尿病の指標)、Fib-4(肝臓線維化の指標)、および蛋白尿を有する割合などは、少量飲酒群が有意に低かった。定期的な運動習慣のある人の割合は少量飲酒群が有意に高かった。

 次に、脂肪肝の有無別に非飲酒者と少量飲酒者を比較検討。すると、脂肪肝のない群では飲酒習慣の違いによる年齢やBMIに有意差はないものの、高血圧の有病率は、非飲酒者26.6%、少量飲酒者が35.3%で、少量飲酒者の方が有意に高かった。

 一方、脂肪肝のある群では、脂質異常症、MetSIGTの有病率は少量飲酒者の方が低く、群間に有意差があった。CKDの有病率も有意でないが少量飲酒者の方が低かった。年齢やBMIに関しては飲酒習慣の違いによる有意差はなかった。

 年齢、定期的な運動習慣、喫煙、使用中の薬剤で調整しオッズ比(OR)を見ると、脂肪肝のない群において少量飲酒者の高血圧のOR1.7395%信頼区間1.042.88)だった。脂肪肝のある群の少量飲酒者においては、脂質異常症0.640.440.95)、MetS0.630.440.92)、IGT0.570.370.88)、CKD0.580.360.94)だった。

 これらの結果を踏まえ原氏らは、「脂肪肝の有無により少量飲酒の影響が異なることが示された。脂肪肝のない人では少量飲酒で高血圧のリスクが上昇し、脂肪肝のある人ではMets関連因子の有病率を低下させる可能性がある」と結んでいる。なお、脂肪肝のある群で少量飲酒がMets関連因子に好影響を及ぼす機序については、「脂肪肝はMetsの肝臓における表現型であり、実際に本検討でもMets有病率は脂肪肝のある群で高かった」という事実に着目し、有病率が高いために少量飲酒によって生ずるアディポネクチンレベルの上昇などの良い面が、脂肪肝のない群よりある群でより明確に表れた可能性があるとしている。

[2019115/HealthDayNews]

降圧薬と認知症リスク

認知症は、予防や治療戦略が難しい健康問題である。認知症を予防するうえで、特定の降圧薬使用が、認知症リスクを低下させるともいわれている。米国・国立衛生研究所のJie Ding氏らは、特定の降圧薬による血圧低下が認知症リスクに及ぼす影響について検討を行った。The Lancet. Neurology誌オンライン版2019116日号の報告。

 198011日~201911日までに公表された適格な観察研究より参加者データを収集し、メタ解析を実施した。適格基準は、コミュニティーの成人を対象としたプロスペクティブコホート研究、参加者2,000人超、5年以上の認知症イベントデータの収集、血圧測定および降圧薬の使用、認知症イベントに関する追加データを収集するための対面試験、死亡率のフォローアップを含む研究とした。ベースライン時の高血圧(SBP140mmHg以上またはDBP90mmHg以上)および正常血圧において、5つの降圧薬クラスを用いて、認知症やアルツハイマー病との関連を評価した。降圧薬服用確率に関連する交絡因子を制御するため、傾向スコアを用いた。研究固有の効果推定値は、変量効果のメタ解析を用いてプールした。

 主な結果は以下のとおり。

・フォローアップ期間722年間(中央値)のコミュニティーベースプロスペクティブコホート研究6件より得られた、55歳超の非認知症成人31,090人を解析対象とした。
・認知症診断は3,728件、アルツハイマー病診断は1,741件であった。
・高血圧群(15,537人)では、降圧薬を使用している患者は、使用していない患者と比較し、認知症発症リスク(ハザード比[HR]0.8895CI0.790.98p0.019)およびアルツハイマー病発症リスク(HR0.8495CI0.730.97p0.021)の低下が認められた。
・認知症リスクに対して、降圧薬のクラス間で有意な差は認められなかった。
・正常血圧群(15,553人)では、降圧薬使用と認知症またはアルツハイマー病との間に関連は認められなかった。

 著者らは「高血圧患者に対する降圧薬使用は、認知症リスクを低下させる。しかし長期の観察では、特定の降圧薬が、他の降圧薬と比較し、認知症リスク低下に効果的であることは示唆されなかった。このことから、今後の高血圧臨床ガイドラインでは、認知症リスクに対する降圧薬の有益な効果を考慮すべきである」としている。

電子タバコ関連の肺疾患が1,888件まで急増

米疾病対策センター(CDC)は1031日、電子タバコの使用に関連した重篤で死に至る可能性もある肺疾患の報告が1,888件に達したと発表した。1週間前の1,604件から急増し、アラスカ州を除いた全ての州から症例が報告されているという。

 報告によれば、電子タバコ関連の肺疾患による死亡者数もこの1週間で3例増加し、24州およびコロンビア特別区から累計37例の報告があった。死亡者の年齢は1775歳で、平均年齢は49歳であった。

 今回はこれらの肺疾患を引き起こす要因に関する新たなデータは発表されなかったが、CDCは先週、報告された症例の86%が大麻の主な有効成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)を含有する製品を使用していたことを明らかにしている。特に若い男性の症例が多く、全体の70%が男性で、79%が35歳以下だった。

 CDCの調査からは、THCが電子タバコ関連の肺疾患の最も疑わしい要因と目されているが、最近の研究では別の要因が関与している可能性も示唆されている。例えば、米メイヨー・クリニックのBrandon Larsen氏らは10月初めに、17人の重症例(うち2人は死亡)を対象とした研究結果を「New England Journal of Medicine」で報告。この研究では、ほとんどの症例に電子タバコのリキッドに含まれる汚染化学物質や有毒な副産物などの有害物質が関与していた可能性が高いことが示されたという。

 なお、CDC副所長のAnne Schuchat氏は「THCを含まないニコチン含有製品も、肺疾患の原因にはならないとは言い切れない。したがって、CDCは引き続き、全ての電子タバコ製品の使用を控えることを推奨する」と強調している。

 現時点で明らかなのは、こうした肺疾患は突然、重篤な状態に陥る可能性があるということだ。主な症状は咳や息切れ、胸痛など。患者の中には呼吸困難のため酸素吸入や人工呼吸器が必要になった人もいた。

 CDCによる今回の新しいデータが公表される2週間前には、米国で最も売れている電子タバコ製品「Juul」のうち、フルーツなど一部のフレーバー付き製品の販売が中止されることが発表された。AP通信によれば、このような企業側の決断の背景には、フレーバー付きのニコチン製品が、ティーンエージャーのニコチン中毒や電子タバコ蔓延のきっかけとなっているとの批判が広がったことが挙げられる。また、トランプ政権も、ほぼ全てのフレーバー付き電子タバコ製品の販売を禁止する方針を発表している。

 ただ、「Juul」で販売中止となるのはマンゴーやクリーム、フルーツ、キュウリのフレーバーが付いた製品のみで、人気のミントやメントールについては引き続き販売されることが決まっている。このような対応について、反タバコ団体「キャンペーン・フォー・タバコフリー・キッズ」のMatthew Myers氏は「若者の電子タバコの使用に対し、企業は真剣に向き合っていない」と批判。政府に対し、タバコを除く全てのフレーバー付き電子タバコ製品の販売禁止を強く求めている。

[20191031/HealthDayNews]

肥満と糖尿病の蔓延を背景に膵臓がんが世界的に増加

世界規模で膵臓がんが増加しており、その背景に肥満や糖尿病の蔓延が関係している可能性が報告された。テヘラン医科大学(イラン)のReza Malekzadeh氏らが、世界195カ国のデータを統合し消化器がんの世界的傾向を19902017年にわたり調査した結果で、欧州消化器病週間(UEG2019101923日、スペイン、バルセロナ)で発表され、同時に「The Lancet GastroenterologyHepatology1021日オンライン版に掲載された。

 膵臓がんの患者数は1990年の195,000例から2017年には448,000例と、27年間で約2.3倍に増加していることが示された。このような大幅な増加の理由の1つは人口が増えていることやその高齢化によると考えられる。しかし人口動態の影響を除外した年齢調整罹患率(10万人年当たり)も5.0から5.7に上昇しており、さらに死亡率も5.1から5.6へと10.4%上昇していた。

 統計解析により、膵臓がんによる死亡の8.9%は空腹時血糖値が高いことに起因し、6.2%は肥満に起因するものであると推計され、世界的に肥満や糖尿病が増えていることが膵臓がん増加の背景にあると考えられた。

 Malekzadeh氏によると、膵臓がんは世界でも最も死亡率の高いがんであり、5年生存率は5%に過ぎないという。さらに同氏は、「膵臓がんの罹患率および死亡率は、高所得国で最も高かった。高所得国では、膵臓がんのリスク因子である、肥満や糖尿病の有病率の上昇が膵臓がん患者数の増加を押し上げている可能性がある」と考察している。その上で、「それらのリスク因子の多くは修正することができ、予防の手立てがある」と述べている。

 米ノースウェル・ヘルスがん研究所のWasif Saif氏は、膵臓がんの問題の1つとして、早期発見に役立つ優れたスクリーニング手段がないことを挙げている。その結果、「膵臓がんは発見されたときには既に遅すぎて、致死的であることが多い」という。

 膵臓がん以外の消化器がんに目を向けると、大腸がんは罹患率が上昇しているものの、致死的な疾患ではなくなりつつあることが示された。具体的には、新規患者数が19952017年にかけて9.5%増加したが、大腸がんによる死亡率は同期間中に13.5%減少した。これは、大腸内視鏡検査などによるスクリーニングが普及し、より多くの症例が早期に発見されるようになったためと考えられる。

 米レノックスヒル病院のElliot Newman氏は、「スクリーニングを受けることが重要だ」と指摘するとともに、「運動を増やし、喫煙量を減らし、体重をコントロールして、食物繊維が豊富な食生活を送ること。それらのいずれも、大腸がん、特に男性の大腸がんの予防につながる」と述べている。

 なお、胃がんについては、世界のがんによる死亡原因の第2位だったものが、肺がん、大腸がんに次ぐ第3位になった。

[20191023/HealthDayNews]

深い眠りが脳の老廃物の除去を促す

 深い眠りについている状態であるノンレム睡眠中に、脳内の有害物質が洗い流されている可能性が米ボストン大学のLaura Lewis氏らの研究で示唆された。脳内を循環する脳脊髄液により老廃物の排出が促されることは知られていたが、その細かい様子は解明されていなかった。今回の研究では、ノンレム睡眠中に脳波が徐波化し、それを受けて血液の振動が起こり、次いで脳脊髄液が律動的に脳内を出入りすることが示されたという。この研究結果は「Science111日号に発表された。

 Lewis氏によれば、脳内の老廃物には認知症患者の脳内に蓄積していることが知られるタンパク質のアミロイドβも含まれる。ただし、同氏は「今回の研究は深い眠りにつくことで認知症などの疾患を予防できることを証明するものではない」と強調。その上で、「この種の研究の最終的な目的は、なぜ睡眠の質が低いと認知症や心疾患、うつ病といったさまざまな慢性疾患のリスクが高まるのかを明らかにすることだ」としている。

 これまでの研究で、代謝の過程で生じる副産物が脳内に蓄積しないように脳外へ除去するプロセスにおいて、脳脊髄液が重要な役割を果たしていることが示されていた。また、このプロセスは睡眠中に活発になることも分かっていた。しかし、その機序や理由については不明な点が多く残されていた。

 そこで、Lewis氏らは今回、11人の健康な成人を対象に、非侵襲的な方法を用いて睡眠に関する研究を実施した。研究では、MRIを用いて脳脊髄液の流れを観察し、脳波によって脳内の細胞の電気活動を測定した。

 その結果、ノンレム睡眠の中でも大きくゆるやかな波が現れる深い眠りの段階である徐波睡眠中の研究参加者において、脳活動で徐波が起こるたびに血流の速さや量が変動し、脳脊髄液が大きな振幅を有する波として脳内の隙間に流れ込んでいることが分かった。

 Lewis氏らの説明によると、人は加齢とともに徐波の出現量が減少する。徐波が減ると、脳内の血流量にも影響が及び、睡眠中の脳脊髄液の律動的な動きが減少し、有害物質の蓄積と記憶力の低下をまねく。同氏らは、これまでの研究ではこうしたプロセスが個々に評価されがちであったが、今回の研究によりこれらが密接に関連している可能性が示されたとしている。

 今回の報告を受け、睡眠の専門家らは「これまでに明らかにされている脳脊髄液の働きを踏まえると、徐波睡眠は脳内の老廃物の除去を促していると考えるのが妥当」とする見解を示している。

 その一人で、今回の研究には関与していない米ノースウェスタン大学のPhyllis Zee氏は、「この研究は、脳の神経細胞を健康に保ち、脳内の有害物質除去を促すために睡眠が重要であることの理由や、その機序の解明に向けた手がかりとなるものだ」と話している。

 一方、米ワシントン大学セントルイス校のRaman Malhotra氏は、「脳から有害物質を除去する上で睡眠がどのような役割を担っているのかについては今回の研究を含めてエビデンスが集積されつつある。例えば、最近報告された研究では、健康な成人でも一晩眠らないだけで脳内にアミロイドβの増加が認められた」と説明する。

 なお、今回の研究は健康状態の良い若年成人を対象に実施された。Lewis氏は「今後は健康な高齢者や持病のある人を対象に研究を実施し、深い睡眠時に脳脊髄液の動きに違いがあるかどうか検討する必要がある」としている。

[20191031/HealthDayNews]

プライマリケアにおけるベンゾジアゼピン減量戦略

ベンゾジアゼピンは一般的な医療用医薬品であり、成人の約10%において、過去1年間で使用されている。これらの薬剤は依存性があり、多くの患者に対し長期間使用され、長期的な副作用も認められている。英国・NHS Greater Glasgow & ClydeStephen Davidson氏らは、ジアゼパムを繰り返し使用している患者の処方を見直し、必要に応じて減量および中止が可能か、また、それらの変化が24ヵ月継続するかについて調査を行った。Korean Journal of Family Medicine誌オンライン版2019116日号の報告。

 本研究では、半農村地域の一般診療において、ジアゼパム使用を減量するための最低限の介入戦略を用いた。最近ジアゼパムを使用している患者に、一般開業医への来院を依頼した。患者ごとに減量グリッドを作成し、1mg/週の減量を行った。精神医学的併存疾患を有する患者も含まれていた。中断データは毎月のデータに含めた。アウトカムは、12ヵ月および24ヵ月に評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・ジアゼパムを繰り返し使用していた患者は92例、そのうち87例(94.6%)がレビューに参加した。
・精神医学的治療を受けていた患者27例(29.3%)には、精神科医のサポートの下、漸減法を実施した。
24ヵ月後、77例中63例(81.8%)が、ジアゼパムの定期的な使用を中止、もしくは中止する過程であった。
・総月間ジアゼパム使用は、統計学的に有意な減少が認められた(1,000患者当たりの1日用量2.2→0.7 DDD)。

 著者らは「この最小限の介入戦略は、プライマリケアとセカンダリケアの連携により、一般診療におけるジアゼパムの継続的な使用削減効果をもたらした」としている。

飲酒と喫煙に対する健康政策はがん死を減らせる?

長期の飲酒と喫煙はがんの危険因子として認識されているが、飲酒と喫煙に対する公衆衛生政策ががんの死亡率に与える影響は検討されていない。今回、オーストラリア・メルボルン大学のHeng Jiang氏らが、オーストラリアにおける1950年代~2013年の飲酒および喫煙に関する政策とがん死亡率の変化との関連を検討した結果、いくつかの政策変更が飲酒・喫煙の変化とその後20年間のがん死亡率の変化に関連することが示された。BMC Medicine201911月号に掲載。

 本研究では、アルコールとタバコの1人当たり消費量の19112013年における集団ベースの時系列データと、1950年代~2013年の頭頸部(口唇、口腔、咽頭、喉頭、食道)がん、肺がん、乳がん、大腸および肛門がん、肝臓がん、がん全体の死亡率を、オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics)、ビクトリア州がん協会(Cancer Council Victoria)、WHOがん死亡データベース(WHO Cancer Mortality Database)、オーストラリア保健福祉研究所(Australian Institute of Health and Welfare)から収集した。アルコールとタバコの消費量の変化と重大な関係がある政策を初期モデルで特定後、主要な公衆衛生政策やイベントに基づいて推定遅延を伴う介入ダミーを作成し、時系列モデルに挿入して、政策変更とがん死亡率との関係を推定した。

 主な結果は以下のとおり。

1960年代のアルコール販売免許の自由化は、飲酒人口の増加とその後の男性のがん死亡率の増加と有意に関連していた。
1976年以降のオーストラリアにおける任意呼気検査の導入は、飲酒人口の減少とその後の男女両方のがん死亡率の減少に関連していた。
1962年と1964年のタバコに関する英国と米国の公衆衛生報告書の発表と1976年のテレビとラジオでのタバコ広告禁止は、オーストラリアにおけるタバコ消費量の減少とその後のがん(肝臓がん除く)の死亡率の減少に関連していた。
1960年代~1980年代の飲酒と喫煙に関する政策の変更は、女性より男性でより大きな変化と関連していた(とくに頭頸部がん、肺がん、大腸がん)。



脳は馴染みのある曲を瞬時に聞き分ける

ラジオから馴染みのある曲が流れてきたときに、すぐにメロディや歌詞を全て思い出せたという経験は誰にでもあるだろう。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン聴覚研究所のMaria Chait氏らが行った研究で、人間の脳は、聞き慣れた曲であれば、わずか0.10.3秒で聞き分けられることが分かった。研究の詳細は「Scientific Reports1030日オンライン版に掲載された。

 今回の研究では、まず、計10人の参加者(男女各5人)に、良い思い出と関連する馴染みのある5曲を選んでもらった。次に、Chait氏らは、各参加者が選んだタイトルから1曲を選び、テンポやメロディ、ハーモニー、ボーカル、演奏に使う楽器が似ているが、その参加者には馴染みのない曲を対照として用意した。

 その後、参加者には、馴染みのある曲と馴染みのない曲から、長さ1秒未満のメロディ断片をランダムに計100回再生して聞かせ、脳の電気活動と覚醒の尺度となる瞳孔径を記録した。脳が曲を認識したか否かは、覚醒の亢進と関連する可能性がある「瞳孔の散大」に続いて、「記憶想起に関連する脳活動」が生じたかどうかで判断した。

 研究では、馴染みのない曲だけを聞く12人の対照群でもテストを行った。その結果、参加者は、馴染みのある曲と馴染みのない曲を瞬時に判別していることが分かった。馴染みのある曲の断片を聞くと0.10.3秒で瞳孔がより散大し、脳活動が活性化していた。一方、馴染みのない曲だけを聞いた「対照群」では、どのメロディの断片に対する反応にも差はみられなかった。

 Chait氏は「この研究結果からは、私たちの脳は、聞き慣れた曲を瞬時に認識することが示された」と述べ、「今回の発見は、非常に高速で一時的な脳回路の存在を指し、馴染みのある曲は私たちの記憶の中に深く残るという事実とも一致する」と付け加えている。

 また、Chait氏は「基礎科学の範疇を超えて、脳が馴染みのある曲を認識するメカニズムを明らかにすることは、音楽をベースとしたさまざまな治療的介入に役立つだろう」と指摘。「例えば、近年では、記憶に問題があっても、知っている音楽はよく覚えているという認知症患者に対して、治療のブレークスルーとして音楽を活用することへの関心が高まっている」と説明。「音楽の聞き分けを司る神経回路やプロセスを特定することは、このような現象の基礎を解明する手掛かりになるかもしれない」と期待を示している。

[2019113/HealthDayNews]

統合失調症患者のインスリン抵抗性有病率

 いくつかの研究において、統合失調症患者は、インスリン抵抗性リスクが高いことが示唆されている。中国・北京大学のChen Lin氏らは、中国人統合失調症入院患者におけるインスリン抵抗性の有病率および臨床的相関について調査を行った。Comprehensive Psychiatry誌オンライン版2019年11月7日号の報告。

 対象は、統合失調症患者193例(男性:113例、女性:80例)。血漿グルコースおよび脂質レベルに関するデータを含む人口統計および臨床データを収集した。認知機能の評価には、Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status(RBANS)、精神症状の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いた。インスリン抵抗性を評価するHOMA-IRのカットオフ値は、1.7に設定した。

 主な結果は以下のとおり。

・インスリン抵抗性の有病率は、37.82%(73例)であった。
・インスリン抵抗性患者は、そうでない患者と比較し、ウエスト/ヒップ比、BMI、空腹時血糖、トリグリセリド(TG)、LDLレベルが有意に高かった(各々p<0.05)。
・バイナリロジスティック回帰分析では、喫煙、BMI、TG、LDLレベルが、インスリン抵抗性の有意な予測因子であった。
・相関分析では、ウエスト/ヒップ比、BMI、LDLレベルが、インスリン抵抗性と有意に相関していることが示唆された(Bonferroni補正:p<0.05)。
・多変量線形回帰分析では、BMIと空腹時血糖が、インスリン抵抗性と関連していることが示唆された。
・異なる抗精神病薬を使用している患者間で、インスリン抵抗性に有意な差は認められなかった。

 著者らは「中国人統合失調症患者では、インスリン抵抗性およびそのリスク因子を有する割合が高かった。統合失調症患者のインスリン抵抗性発生を防ぐためにも、BMIやウエスト周囲を減らし、タバコの本数を減らすための積極的な体重管理が不可欠である」としている。