乳がん治療、ガイドラインに従わないときの生存率

乳がん治療において、ガイドラインで推奨される治療を受け入れない乳がん患者もいる。もしガイドラインに従わない場合、生存率にどの程度影響するのだろうか。今回、シンガポールゲノム研究所のPeh Joo Ho氏らは、大規模な乳がん患者集団において推奨治療の非順守の予測因子および生存率への影響を検討した。その結果、ガイドラインで推奨された手術や放射線療法を順守しない場合、全生存が2倍以上悪化し、ガイドラインによる適切な治療に従うことの重要性が強調された。また、高齢患者でも同様の結果が得られ、推奨治療により恩恵を受ける可能性が示唆された。Scientific Reports2020128日号に掲載。

 本研究の対象は、200515年にシンガポールで乳がんと診断された患者のうち、転移のない乳がん患者19,241例で、3,158例(16%)が診断後10年以内に死亡した(生存期間中央値:5.8年)。シンガポールの公立病院では、一般にNCCNガイドラインとザンクトガレン2005コンセンサスに従っている。ロジスティック回帰を用いた治療非順守と因子との関連、パラメトリック生存モデルフレームワークを用いた治療非順守が全生存に及ぼす影響を検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・治療非順守率が最も高かった治療は化学療法(18%)であった。
・化学療法、放射線療法、内分泌療法が順守されない予測因子は、年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節転移、サブタイプ(放射線療法を除く)であった。
・手術拒否に関連する因子は、年齢とサブタイプであった。
・治療非順守は、手術(ハザード比[HR]2.2695%信頼区間[CI]1.802.83)、化学療法(HR1.2595%CI1.111.41)、放射線療法(HR2.2895%CI1.942.69)、内分泌療法(HR1.7095%CI1.412.04)において全生存が悪化した。
・ガイドラインが通常適用されない高齢患者でも同様の結果が得られた。

日焼け止めの有効成分6種、体内吸収後に血中へ

4つの形態の日焼け止め製品に含まれる6種の有効成分について、いずれも体内に吸収されて血中に移行し、さらなる安全性研究に進む基準となる米国食品医薬品局(FDA)の最大血漿中濃度閾値(0.5ng/mL)を上回ることが、米国・FDAMurali K. Matta氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA2020121日号に掲載された。FDAによる既報のパイロット研究では、日焼け止めの4種の活性成分(アボベンゾン、オキシベンゾン、オクトクリレン、エカムスル)の体内吸収が報告されている。他の活性成分の体内吸収を確認するとともに、FDAの基準値である0.5ng/mLを上回る迅速な体内曝露を評価する研究が求められていた。

6種の活性成分を4形態で比較する無作為化試験

 研究グループは、日焼け止めの6種の有効成分(アボベンゾン、オキシベンゾン、オクトクリレン、ホモサレート、オクチサレート、オクチノキサート)の体内吸収と薬物動態を評価する目的で、4つの形態(ローション、エアロゾルスプレー、非エアロゾルスプレー、ポンプスプレー)の製品を比較する無作為化試験を実施した(米国FDAの助成による)。

 本研究は、20191月~2月の期間に単一の施設で行われた。健康な48人を対象とし、4つの形態の日焼け止め製品の塗布を受ける群に、12人ずつ無作為に割り付けられた。

 日焼け止め製品は、4日間で13回塗布された。第1日に体表面積の75%に2mg/cm2が塗布され、第24日には同じ用量を1日に4回、2時間ごとに塗布された。個々の参加者から21日間で34の血液サンプルを採取し評価した。

 主要アウトカムは、第121日におけるアボベンゾンの最大血漿中濃度とした。副次アウトカムは、第121日におけるオキシベンゾン、オクトクリレン、ホモサレート、オクチサレート、オクチノキサートの最大血漿中濃度であった。

1日の単回塗布で全活性成分が閾値を上回る

 48人のベースラインの平均年齢は38.7SD 13.2)歳で、24人(50%)が女性であった。23人(48%)が白人、23人(48%)がアフリカ系米国人、1人(2%)がアジア人、1人は人種/民族が不明だった。

 6種の有効成分の最大血漿中濃度の幾何平均は、いずれも0.5ng/mLを超えており、すべての活性成分単回塗布後の第1日に、このFDAの閾値を上回った。

 第121日におけるアボベンゾンの最大血漿中濃度幾何平均(変動係数[%])は、ローションが7.1ng/mL73.9%)、エアロゾルスプレーが3.5ng/mL70.9%)、非エアロゾルスプレーが3.5ng/mL73.0%)、ポンプスプレーは3.3ng/mL47.8%)であった。また、第1日はそれぞれ1.6ng/mL49.0%)、1.2ng/mL90.6%)、1.0ng/mL65.2%)、0.7ng/mL64.5%)で、第4日は7.1ng/mL73.9%)、3.5ng/mL70.9%)、3.5ng/mL73.0%)、3.1ng/mL40.3%)だった。

 第121日のオキシベンゾンの最大血漿中濃度幾何平均(変動係数[%])は、ローションが258.1ng/mL53.0%)、エアロゾルスプレーが180.1ng/mL57.3%)であり、オクトクリレンはローションが7.8ng/mL87.1%)、エアロゾルスプレーが6.6ng/mL78.1%)、非エアロゾルスプレーが6.6ng/mL103.9%)で、ホモサレートはエアロゾルスプレーが23.1ng/mL68.0%)、非エアロゾルスプレーが17.9ng/mL61.7%)、ポンプスプレーが13.9ng/mL70.2%)、オクチサレートはエアロゾルスプレーが5.1ng/mL81.6%)、非エアロゾルスプレーが5.8ng/mL77.4%)、ポンプスプレーが4.6ng/mL97.6%)、オクチノキサートは非エアロゾルスプレーが7.9ng/mL86.5%)、ポンプスプレーが5.2ng/mL68.2%)であった。

 探索的評価では、4つの形態の製品のすべての活性成分は半減期が長いことが示された(平均値の範囲:27.3157.4時間)。

 重篤な薬剤関連の有害事象の報告はなかった。最も頻度の高い有害事象は皮疹であり、14例に認められた。

 著者は、「この結果は、日焼け止めの使用は控えるべきと示唆するものではない」と指摘し、「これらの知見の臨床的意義を検証するために、さらなる検討を要する」としている。

米で新薬の迅速承認が加速

米食品医薬品局(FDA)は希少疾患や重症疾患の新薬の承認を早めることを目的に、4つの迅速承認プログラムを推進している。近年では、新薬承認の迅速化が加速し、厳格な審査を経ずに承認される薬剤が増えつつある実態が、米ハーバード大学医学部のJonathan Darrow氏らの研究で示された。研究によれば、2018年にはFDAが承認した新薬の81%が1つ以上の迅速承認プログラムの適用を受けていたという。研究結果の詳細は「Journal of the American Medical AssociationJAMA)」114日号に発表された。

 Darrow氏は「1983年から現在に至るまで、新薬の承認取得に必要とされる基準は大きく変わってきている。しかし、患者はもちろん医師でさえ、過去40年間にFDAの承認基準や要件が緩和されていることを知っている人は少ない」と話している。

 今回の研究では、2件以上のエビデンスレベルの高い臨床試験結果に基づいて承認された新薬のシェアは、19951997年の80.6%から、20152017年の52.8%へと、大きく減少したことが示された。また、FDAの医薬品審査期間は、1983年の3年以上から2017年には1年未満へと大幅に短縮していた。

 画期的で有効性が極めて高い新薬であれば、発売時期が早まるのは患者にとって朗報かもしれない。しかし、Darrow氏によれば、このような新薬の多くは、既存薬をわずかに上回る程度の効果しかないことが別の研究で明らかになっているという。

 一方、迅速承認プログラムを導入後も、新薬の承認件数には経年的に大幅な増加は見られなかった。年間の平均承認件数は、19901999年には34件で、20002009年には25件に減少。20102018年には41件と、1980年代から30件前後で推移していた。

 FDAは声明で「Darrow氏らの研究は、非常に幅広い問題をカバーするものだ」とする一方で、「10年前、20年前とは審査対象となる医薬品の種類や開発プログラムが標的とする患者集団は大きく変化していることが考慮されていない」と指摘。また、「FDAが受理するデータの種類や質、範囲も以前とはかなり変わってきており、このような変化を考慮せずに導き出した結論は正確ではない可能性がある」との見解を示している。

 なお、HealthDayは米国研究製薬工業協会(PhRMA)に対して取材を試みたが、回答は得られなかった。

 迅速承認プログラムの導入は、従来よりも柔軟なエビデンスに基づく新薬の承認を可能にした。「例えば、生存期間の延長や心臓発作の抑制などではなく、脂質値の低下や腫瘍の縮小といった評価項目だけでも承認が得られるようになった」とDarrow氏は説明する。ただ、臨床試験が開始されてから承認までの期間に変わりはなく、製薬企業が新薬の開発に費やす期間は短縮していないという。

 また、Darrow氏らによれば、製薬企業が負担する審査費用へのFDAの財政的な依存度は高まっており、「このプログラムには迅速な新薬承認が可能になった反面、弊害も見られる」としている。

 今回の研究には関与してない米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のJoshua Sharfstein氏は、これらの迅速承認プログラムは医療費の増大をもたらしたと指摘。その上で「どのような状況下でどのインセンティブを付与すれば、現行の治療を大きく変えるような医薬品の承認につながるのか、FDAは一度立ち止まって見直す必要がある」と述べている。

[2020114/HealthDayNews]

日本人統合失調症患者における長時間作用型抗精神病薬の使用と再入院率~全国データベース研究

統合失調症患者に対する抗精神病薬の長時間作用型持効性注射剤(LAI)について、現在の処方状況および臨床結果を調査することは重要である。国立精神・神経医療研究センターの臼杵 理人氏らは、日本での統合失調症患者に対する抗精神病薬LAIについて、その処方割合と再入院率に関する調査を行った。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版20191225日号の報告。

 日本のレセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて、オープンデータセットを作成した。統合失調症の患者レコードを使用した。分析(1)において、20152月~20173月に精神科施設を受診した外来患者に対する抗精神病薬の処方割合を調査した。分析(2)においては、精神科施設を初回退院後90日以内に抗精神病薬LAIによる治療を受けた患者を対象に、退院後365日間の再入院率を調査した。

 主な結果は以下のとおり。

・抗精神病薬による治療を受けた統合失調症外来患者のうち、LAIの処方割合は3.5%であった。
・再入院率は、統合失調症患者全体で41.0%、定型抗精神病薬LAIの単独療法を受ける患者で36.2%、非定型抗精神病薬LAIの単独療法を受ける患者で23.5%であった。

 著者らは「日本での統合失調症治療において、抗精神病薬LAIは、まだ十分に普及していない。非定型抗精神病薬LAIは、定型抗精神病薬LAIと比較し再入院率が低かった。本結果は、今後の研究を行ううえで重要な基本情報となりうるが、集約データベースとデータベースの構造によって一般化可能性が制限されると考えられるため、解釈には注意が必要である」としている。

ソーシャルメディアは健康に良い?悪い? AHAニュース

ソーシャルメディアの広がりとウェブサイトやアプリケーションの無限の資源が、人々の健康情報への飽くなき欲求と結びあうと、患者、医療従事者、研究者にとって強力なツールとなる。最近の調査によると、米国人の81%がスマートフォンを利用しており、ほぼ全員がコンピューターを保有しているという。さらに72%が何らかのソーシャルメディアを利用していて、69%がFacebook37%がInstagram22%がTwitterを利用しているとされる。

 米Penn Medicine CenterRaina Merchant氏は、「ソーシャルメディアは、以前には成し得なかった方法での医療サポートを可能にし、情報を拡散する素晴らしいツールだ。ソーシャルメディアを通じて患者同士で何を話しているのか、何を心配しているのかを理解できる」と述べている。

 同氏はこれまでに、Facebookの投稿を分析し、健康問題や心理学的問題を検討したり、医療機関の評判を見比べたり、医療従事者がソーシャルメディアを使って患者の話を理解するために手助けするといった研究を行ってきている。しかし何百万ものツイートを分析した同氏が直面したのは、インターネットのジレンマと言える「デマ」だった。

 「よくあるのが、例えば『凍らせたレモンを食べれば糖尿病が治る』といった類だ。言うまでもなくばかげた話で、薬を飲むのを中断し冷凍レモンを食べていれば、深刻な健康被害につながる。我々はこうした状況に対抗しなければならない」と同氏は語る。

 子どもに対しては別の問題もある。非営利団体Action for Healthy KidsLoren Coleman氏は、「ソーシャルメディアは健康法を学んだり刺激を受けたりするのに最適な場所」と評価しながら、「ネットによるいじめは大きな問題であり、子どもたちがソーシャルメディアを上手に利用できるように、保護者はオンラインかつオフラインで関与していく必要がある」と述べている。

 一方、医療従事者の間でも、ソーシャルメディアの存在は日に日に大きくなっている。米スタンフォード大学医学部長で循環器・血管内治療を専門とするRobert Harrington氏は、「専門家として活動していく上でソーシャルメディアが非常に役立つようになってきた。時間を効果的に使え、以前より多くの情報を得た上で考察できるようになった」と述べている。

 しかし同氏は最近、電子タバコを巡る自身の姿勢に不満を持つ人々とネット上で口論するという経験をした。「このような人々はデータについて話したいのではなく、自分の思いを人に伝えたいのだ。専門家はこういった口論を避けずに、進んで関与していかなければならない。この手の議論には、信念に基づく意見ではなく、事実に即した意見が求められる」と述べている。

 一般の人にとっての問題は、多くの場合、情報の受け手側にいることである。かつてないほど大量の情報が得られるようになったことで、情報を整理し、何が信頼できるのかを自ら判断しなければならない。「そのためには、さまざまな視点から情報を批判的に考える姿勢(クリティカルシンキング)が必要」とHarrington氏は指摘している。

 前出のColeman氏は、「“Infobesity”(情報肥満)という新語は、インターネットなどに氾濫する情報によって人々が過剰負荷になっている状態を表現している。このような状況をわれわれ自身そして子どもたちが健全な形で管理していくことが極めて肝要である」と述べている。

[2020
122/American Heart Association] 

米国で大型ハリケーンが激増、過去100年間で3倍以上

米国を直撃したハリケーンは、気候変動の影響を受けて、その規模や勢力、破壊力が急激に増していることが、コペンハーゲン大学(デンマーク)ニールス・ボーア研究所准教授のAslak Grinsted氏らの研究で明らかになった。「Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)」1111日オンライン版に発表された研究によれば、米国を襲った大型ハリケーンは、過去100年の間に3倍以上に増加していることが分かったという。

 今回の研究は、米国の保険業界のデータベースを用いて、ハリケーンによる被害を新しい手法で分析、比較したもの。Grinsted氏らによれば、これまでハリケーンの被害額を比較するには、ハリケーンごとの被害額を算出し、被害額を時代に合わせて換算する必要があった。例えば、1950年代のハリケーンによる被害額を現在の価値に換算した上で比較するというものだ。

 しかし、ハリケーンによる被害額の増加は、インフレや人口の増加、資産の増大によるものである可能性がある。そのため、気候変動によって、実際にハリケーンの勢力が増しているのか否かを判断することは困難であった。

 そこで、Grinsted氏らは、ハリケーンによる金銭的損失を説明する手法として、ハリケーンで被害を受けた土地面積のうち、損失額に達するために必要な“壊滅的な被害を受けた地域の総面積(area of total destruction)”を割り出して分析した。

 その結果、ハリケーンは気候変動により規模や勢力のほか、破壊力も増していることが認められた。Grinsted氏らは「2000年代以降、壊滅的な被害を受けた地域の面積は激増しており、最強クラスのハリケーンの数は、過去100年間で330%も増加していることが分かった」と述べている。

[20191118/HealthDayNews]

慢性腎臓病の発症リスクを予測する新ツール

今後5年間に慢性腎臓病(CKD)になるかどうかを主治医が簡単な計算で予測できるとしたら、どうだろうか。米ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らの報告によると、それが可能になったという。

 「われわれが開発したリスク計算式を使えば、医師は今後5年間に誰がCKDになるかを高い精度で推測できる。この計算式は、世界各地での異なる臨床環境においてもその精度を維持できることが示されている」と、同大学公衆衛生大学院疫学分野教授のJosef Coresh氏は述べている。この報告は、「JAMA118日オンライン版に掲載された。

 新たに開発された計算式は、年齢や性別といった情報を用いて、その人がCKDを発症しやすいかどうかを予測するもので、糖尿病のない人を対象とするものと糖尿病のある人を対象とするものの計2種類。CKDリスクが最も高く早期治療のメリットを受ける患者を医師が選び出す上で助けとなる。CKDは進行性の疾患だが、このような手法で早期に発見し治療していけば、進行を遅らせたり止めたりすることも可能だという。

 Coresh氏のチームは計算式の開発に、19704月~20171月に報告された28カ国から34件のコホート研究のデータを利用。研究対象者数は合計5222,711人に及ぶ。

 全体を糖尿病の有無で2グループに分けると、糖尿病のないグループは4441,084人(平均年齢54±16歳、38%が女性、BMI27±6)。平均4.2年の追跡期間中に14.9%にあたる66856人がCKDを発症した。一方、糖尿病のあるグループは781,627人(平均年齢62±11歳、13%が女性、BMI32±6)で、平均3.9年の追跡期間中に40.1%にあたる313,646人がCKDを発症した。

 計算に用いる情報として、先に挙げた年齢や性別のほかに、人種・民族、eGFR、心血管疾患や高血圧の既往、喫煙歴、BMI、尿中アルブミンを利用する。糖尿病患者の場合はこれにHbA1cと糖尿病用薬の使用状況を加える。

 開発された計算式が5年後のCKD発症をどの程度の確率で予測するかをROC解析で検討すると、糖尿病がない場合のC統計量は0.845、糖尿病がある場合は0.801となった。この予測能力は臨床で利用するのに十分な精度という。さらに、別の200万人強のグループで確認したところ、やはり高い精度があるとみなされた。

[2019118/HealthDayNews]

薬剤耐性菌問題は依然として脅威

米疾病対策センター(CDC)は1113日、「米国における薬剤耐性菌の脅威」を更新し、米国では薬剤耐性菌を原因とする死亡者数は幾分か減ったものの、これらの耐性菌の拡大に歯止めがかかる兆しは見えていないことを報告した。

 報告書によると、これまでに進められてきた対策によって、米国における薬剤耐性菌の感染による死亡者数は18%減少し、薬剤耐性菌の院内感染による死亡者数は約30%減少した。この結果について米国医療疫学学会(SHEA)会長のHilary Babcock氏は「われわれが耐性菌に対して無力ではないことを示す素晴らしいデータだ。医療疫学者や感染予防の専門家、研究者や薬剤師など、さまざまな人たちが重要な感染予防・抗菌薬管理プログラムを通じて人々の命や健康を守り、病院内の環境の安全性を高めてきた結果だ」と説明する。

 しかし、今回発表された報告書では、依然として米国内で薬剤耐性を示す細菌や真菌に感染する人は年間280万人を超え、これらの薬剤耐性菌の感染による死亡者数も年間35,000人に上ることが明らかにされている。これは、米国では11秒に1人のペースで薬剤耐性菌感染が生じ、15分に1人のペースで薬剤耐性菌感染による死亡者が出ていることに相当するという。

 さらに、薬剤耐性菌の脅威が当初の予測よりも深刻であることも報告されている。CDCが初めて薬剤耐性菌の報告書をまとめた2013年には、薬剤耐性菌による年間死亡者数は23,000人と試算されていたが、今回の報告書ではその約2倍にあたる44,000人が薬剤耐性菌感染によって死亡しているとの推計値が示されている。

 そのほか、CDCは薬剤耐性菌の脅威のレベルを「緊急」「深刻」「懸念」の3つのカテゴリーに分類しているが、今回、新たにカンジダ・アウリス(Candida auris)と呼ばれるカンジダ属の真菌とアシネトバクター(Acinetobacter)と呼ばれる細菌が「緊急」のカテゴリーに加えられた。これらの菌は、免疫力が低下した入院患者に重篤な侵襲性感染症をもたらす危険性があるが、最も強力で広く使用されている抗菌薬や抗真菌薬への耐性を獲得しつつある兆候が示されているという。

 「カンジダ・アウリスは5大陸で同時に出現した。このことは、われわれが直面している問題の大きさを物語っている」とCDC局長のRobert Redfield氏は説明。また、カンジダ・アウリスに感染した人は3人に1人が死亡することも指摘している。

 なお、今回カンジダ・アウリスとアシネトバクターが「緊急」のカテゴリーに加わったことで、同カテゴリーに分類される脅威はカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridioides difficile)の3つから5つに増えた。

 National Association of County and City Health OfficialsNACCHO)のAdriane Casalotti氏は、「薬剤耐性菌の問題がなくなることはない。特定の耐性菌の抑圧に成功しても別の耐性菌が新たな問題になる」と話す。一方、CDCの薬剤耐性調整・戦略部門のMichael Craig氏は「耐性菌感染による死亡者数が減少しているということは、今用いている戦略が間違っていないということだ。医療機関に導入されている院内感染対策や、抗菌薬使用の適正化、適切な食品の取り扱いや安全な性行為、ワクチン接種や手指衛生は全て有効な対策だ」としている。

[20191113/HealthDayNews]

PPIで認知症リスクが1.3倍~メタ解析

プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用と認知症リスクについて、中国・Anhui Medical UniversityYun Zhang氏らが、調査を行った。European Journal of Clinical Pharmacology誌オンライン版20191121日号の報告。

 英語と中国語のデータベースより、201812月までの文献を包括的に検索した。プールされたハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、変量効果モデルを用いて算出した。サブグループ解析と感度分析も実施した。不均一性の評価には、Cochran’s Q検定およびI2検定を用いた。出版バイアス評価には、Begg検定およびEgger検定を用いた。

 主な結果は以下のとおり。

6研究、166,146例が抽出された。
・全体的な結果では、PPI使用による認知症リスクの有意な増加が認められた(HR1.2995CI1.121.49)。
・サブグループ解析では、PPI使用と認知症リスクとの有意な関連が、欧州の患者(HR1.4695CI1.231.73)および65歳以上(HR1.3995CI1.171.65)で認められた。
・フォローアップ期間5年以上では、プールされたHRは、1.2895CI1.121.46)であり、PPI使用患者の認知症リスクが1.28倍に増加していることが示唆された。
・地域的な影響については、欧州の患者の全体的なプールHR推定値は、1.4695CI1.231.73)であった。
・出版バイアスは認められなかった。

 著者らは「本結果では、PPI使用が認知症リスクを上昇させることが認められた。これらの調査結果を確認するためにも、高品質なコホート研究が求められる」としている。

黄砂が飛来すると胎盤の早期剥離が増える

東アジア内陸部の砂漠から飛来する黄砂が、アレルギー症状や呼吸器疾患、循環器疾患の発症・増悪に関係していることは多くの報告で示されている。今回は産科の救急疾患である常位早期胎盤剥離(以下、早期剥離)との関係が新たに報告された。黄砂が飛来した12日後は早期剥離の発生が1.41.6倍に増えるという。東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野の道川武紘氏らの研究によるもので、詳細は「BJOGAn International Journal of Obstetrics and Gynaecology1026日オンライン版に掲載された。

 早期剥離は全妊婦の約1%に発生するとされ、本来は出産後に子宮壁から剥がれる胎盤が、胎児が母親の胎内にいる時期に剥がれてしまうこと。これが起きると妊婦には大量出血、胎児には酸素や栄養供給が絶たれるというリスクが生じ、母児双方の命にかかわる。今のところ発生原因はよくわかっていない。

 この早期剥離の原因について、東邦大学と九州大学および国立環境研究所の疫学研究グループは、環境という外的因子も関与しているのではないかと仮説を立てて研究を続けてきた。その一環としてさまざまな健康被害をもたらす黄砂に着目。日本産科婦人科学会が実施している周産期登録事業の登録データと、ライダーと呼ばれる黄砂観測装置のデータを利用した検討を行った。

 研究の対象は、ライダーが設置されている9都府県(北は宮城、南は長崎で東京や大阪も含まれる)にある113病院で20092014年に出産した妊婦3,014人。多胎児出産(双子や三つ子など)は除外した。早期剥離のリスク因子と考えられている年齢、喫煙、血圧、および日によって変動する気温や湿度、気圧といった気象要因の影響を調整した上で、黄砂と早期剥離の関連性を分析した。

 研究期間中の黄砂飛来日数は、15日(新潟県)~71日(長崎県)。早期剥離が発生した日付そのものは基礎データからはわからないため、先行研究を参考に早期剥離の発生から出産までの期間を1日以内と仮定し、出産日を起点に16日前の黄砂飛来状況を調査した。

 その結果、出産の12日前に黄砂が飛来していた場合、黄砂のない日に比べて早期剥離が1.4倍に増加していたことがわかった。黄砂飛来時には大気汚染物質(二酸化窒素や二酸化硫黄、光化学オキシダント)の濃度が高くなる傾向があるため、統計的にそれらを調整してもなお黄砂と早期剥離の関連性が認められた。さらに、妊娠35週以降の緊急分娩に絞った分析では黄砂飛来との関連性がより強くなり、黄砂がない日の1.6倍に早期剥離が増加していた。

 この研究は、黄砂が早期剥離を引き起こす機序にまで踏み込んだものではないが、道川氏らは黄砂に含まれている微生物や大気汚染物質の関与に触れている。例えば、黄砂とともに飛来する微生物の中にはグラム陰性桿菌も存在すると考えられ、そのグラム陰性桿菌の細胞壁を構成するリポ多糖は妊婦に炎症を引き起こし、早産の原因となることが知られているという。また、黄砂とともに飛来した大気汚染物質による炎症が早期剥離を増加させた可能性や、喘息をもつ妊婦の喘息症状が黄砂によって悪化し早期剥離につながった可能性も考えられるとしている。

[20191125/HealthDayNews]