ベンゾジアゼピン治療と自殺リスク

不安症および睡眠障害のマネジメントのためのガイドラインでは、抗うつ薬治療と心理療法を第1および/または第2選択治療とし、ベンゾジアゼピン(BZD)は、第3選択治療としている。米国・コロラド大学のJennifer M. Boggs氏らは、自殺による死亡とBZDガイドラインコンコーダンスとの関連について評価を行った。General Hospital Psychiatry誌オンライン版20191117日号の報告。

 Mental Health Research Networkより、米国8州のヘルスシステムから不安症および/または睡眠障害を有する患者を対象とした、レトロスペクティブ症例対照研究として実施した。自殺による死亡症例は、年およびヘルスシステムにおいて対照とマッチさせた。適切なBZDの使用は、単独療法でない、長期使用でない、65歳未満であると定義した。ガイドラインコンコーダンスと自殺による死亡との関連は、診断および治療の共変量で調整し、評価した。

 主な結果は以下のとおり。

・対象は、不安症患者6,960例(BZDR使用患者:2,363例)、睡眠障害患者6,215例(BZDR使用患者:1,237例)。
BZDガイドラインコンコーダンスは、不安障害患者の自殺率低下と関連が認められた(OR0.61195CI0.3920.953p0.03)。このことには、BZDの使用を短期間にすること、心理療法または抗うつ薬を併用することも影響していた。
BZDガイドラインコンコーダンスと自殺による死亡との関連において、睡眠障害患者では、有意な関連が認められなかった(OR0.41395CI0.1541.11p0.08)。

 著者らは「BZDを短期間使用し、心理療法または抗うつ薬治療を併用した不安症患者では、自殺率が低いことが明らかとなった」としている。

テストステロン補充で男性の血栓リスクが2倍に

テストステロン補充療法により血栓リスクが高まる可能性を示した研究結果が、「JAMA Internal Medicine1111日オンライン版に発表された。過去6カ月以内にテストステロン補充療法を受けた男性では、同療法を受けていない男性と比べて深部静脈血栓症(DVT)のリスクが2倍であることが示されたほか、DVTリスクの上昇は性腺機能低下症の有無にかかわらず認められ、高齢男性よりも中年男性の方がリスクの上昇が顕著であったという。

 米国では21世紀の初めにテストステロン値が低い男性に対するテストステロン補充療法が急増し、その処方件数は2001年から2013年までに300%以上も増加した。しかし、2014年に米食品医薬品局(FDA)が、同療法による心筋梗塞や脳卒中のリスク上昇を警告したことを機に、このブームは終息した。

 それでも、2016年の時点でテストステロン補充療法を受けている30歳以上の男性は100万人を超えていた。また、性腺機能低下症の症状がない男性にも依然として同療法が処方されていることを示唆するエビデンスも示されている。

 今回、米ミネソタ大学のRob Walker氏らは、約4万人の男性の20112017年の保険請求データを用いて、テストステロン補充療法とDVTの関連について検討した。

 Walker氏らがデータを解析した結果、性腺機能低下症はないがテストステロン補充療法を受けていた男性では、6カ月以内にDVTを発症するリスクが2.3倍に上昇していた。一方、性腺機能低下症と診断されている男性では、同リスクは2倍に上昇していた。

 また、統計学的な有意差は認められなかったものの、特に中年男性でDVTリスクが高いことが示唆された。「性腺機能低下症のない男性のうち65歳以上の男性では約1.5倍のリスク上昇であったが、65歳未満の男性では約3倍のリスク上昇が認められた」とWalker氏は説明している。

 この研究結果を踏まえWalker氏は、「体重の増加や性機能の低下など、加齢に伴う正常な変化や症状の改善を期待してテストステロン補充療法を受けようとしている男性は、慎重に検討すべきだ。こうした男性は、テストステロン補充療法よりも、医師による処方なしで健康状態の向上を見込める行動変容や生活習慣の改善を試した方が良いだろう」と話す。

 今回の報告について、米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のUmesh Gidwani氏は、「テストステロンには赤血球数を増加させる作用があるため、血液の濃度が高まり、血流が遅くなる。また、血栓の形成に関わる血小板を活性化させることも分かっている」として、テストステロンには血液凝固能を亢進させる作用がある点を指摘する。その上で、「性腺機能低下症がない男性に対するテストステロン製剤の使用は控えた方が無難である可能性を示した研究結果だといえそうだ」との見方を示している。

 Walker氏もこれに同意し、「性腺機能低下症の治療でテストステロン補充療法を受ける必要がある男性では、血栓が見られないか注意深く経過観察を行うべきだ」と付言している。

[20191112/HealthDayNews]



「ワクチン忌避」への対応と医療者教育の重要性/日本ワクチン学会

「ワクチンの有効性・安全性に疑いを持つ人が接種を控える動き(ワクチン忌避)」が世界的に広がりを見せている。世界保健機関(WHO)は2019年に発表した「世界の健康に対する10の脅威」の1つとして「ワクチン忌避」を挙げている。日本においてもHPVワクチンの接種推奨が停止され、再開を求める医療者の声にもかかわらずいまだ果たされていない、等の現状がある。

 1130~121日に開催された「第23回日本ワクチン学会学術集会」では、このワクチン忌避への危機感と対応策が大きなテーマの一つとなった。

ワクチン忌避対抗の第一歩はデータ収集から

 シンポジウム「予防接種の教育啓発」では、国立感染症研究所・感染症疫学センターの砂川 富正氏が「国内外のVaccine hesitancyに関する状況」と題した講演を行った。砂川氏は「Vaccine hesitancy(ワクチン忌避)」に関連すると思われる報告が増加しており、

 「ある自治体における予防接種歴と百日咳に罹患した児の年齢分布を示すデータを見たところ、25歳と年齢が上がっても接種歴の無い児が含まれていた。ワクチンを受けさせない方針の保護者のコミュニティーができ、流行の一部となった疑いがある」と懸念を呈した。

 2019年に報告数が急増し、学会でも大きなトピックスとなった麻しんについて「予防接種を受けていない1020代の患者が30人以上出た、という事例を大きな衝撃を持って受け止めた。ワクチン接種率が90%を超える地域でも、ワクチンに否定的な医師に賛同する保護者のコミュニティなどができ、未接種者が固まって居住しているなどの条件が揃えば、一定規模の流行を生みかねない」と危機感を示した。こうした状況を踏まえ、自治体の予防接種担当者から保護者とのコミュニケーションについてアドバイスを求められることも増えている、という。

 ワクチン忌避の動きは世界中で見られ、ブラジル、バルカン半島などで問題が顕在していることが報告されており、バルカン半島に位置するモンテネグロではワクチン反対派の運動で麻しん含有ワクチンの接種率が5割まで低下したという事例も報告された。科学誌Natureが、日本ではワクチン安全性への懸念が世界で最も高いレベルにあるとの風潮をニュース記事として取り上げるなど、日本は先進国の中でもワクチンを用いた取り組みが容易でない国として注視されている。

 砂川氏は、「米国のようにワクチン忌避に関する定量調査でデータを蓄積し、分析と対応を行っていくことが急務」とまとめた。

米国を参考に医療者向け教育プログラムを作成

 続けて、同じく国立感染症研究所・感染症疫学センターの神谷 元氏が「予防接種従事者への教育の重要性」と題した講演を行った。

 神谷氏は「定期接種・任意接種の問題はあるが、現在では国内で28種類のワクチンを受けられるようになり、海外との差を示すいわゆる『ワクチンギャップ』は数字の上では解消しつつある」と述べたうえで、「ワクチン忌避には歴史的・文化的背景があり、世界的に有効な手段は限られるが、その中で確実に有効性が証明されているのが『医療者への教育』であり、真のギャップをなくす手段である」と述べた。

 そして、自身の留学時に経験した、米国疾病予防管理センター(CDC)とサンディエゴ郡保健局予防接種課の取り組みを紹介。CDCではACIPAdvisory Committee on Immunization Practices)という外部の専門家集団と連携し、ワクチンに関連したエビデンスを検証し、ルール化する作業を常時行っている。ACIPの助言を基に決定したワクチンに関するルールは、全米の関係者・関係機関に通達され、患者からの問い合わせに対して全員が同じ回答ができることが信頼性につながっていると説明。また、米国には小学校入学前にワクチン接種を促す「School Law」と呼ばれるルールがあり、接種させない保護者にはペナルティが課されるという。

 サンディエゴ郡保健局では、ワクチンに関するオンライン教育システムを用意し、担当地域の小児科・プライマリケアのレジデント全員に受講義務を課している。学習内容は臨床に即した実践的なロールプレイングを行うチーム学習プログラムであり、患児の予防接種歴確認の重要性などを体感できる。さらに、保健局はクリニックに対して担当地域の予防接種率のデータをフィードバックしており、「2回目の接種率は90%だが、3回目は70%に落ちている」等の実際のデータを見せることで、医師に対してワクチン接種を促す意識付けを図っている。こうしたさまざまな取り組みによって、サンディエゴ郡の予防接種率は全米トップクラスを達成、維持している。

 同保健局の取り組みをヒントに、神谷氏は有志とともに医療従事者向けにワクチン知識を深めるためのオンライン講座を作成。医師向けに続き、看護師や事務員版についてもトライアルを進めているという。

超加工食品の取り過ぎは心臓に悪い?

冷凍食品や缶詰のソース、ファストフードなどの「超加工食品」は忙しいときには便利だが、取り過ぎはやはり健康に良くないようだ。平均的な米国人の1日の摂取カロリーのうち約55%は超加工食品が占めており、その割合が高いほど心血管の健康度は低下するという研究結果を、米疾病対策センター(CDC)のZefeng Zhang氏らが米国心臓協会の年次集会(AHA 2019111618日、米フィラデルフィア)で発表した。

 超加工食品とは、脂肪やでんぷん、マーガリンなどの硬化油、添加糖のほか、香味料や着色料、乳化剤などの添加物を加えた加工済みの食品を指す。「コンビニエンスフード」として販売されている食品の多くは超加工食品で、冷凍食品や瓶詰めのソース、ファストフードのほか、清涼飲料やスナック菓子、ホットドック、ハムなどの加工肉、チキンナゲットなどさまざまな食品が店頭に並んでいる。

 超加工食品と心疾患リスクの関連を報告した研究はこれが初めてではない。「BMJ5月号に掲載された別の研究では、10万人以上のフランス人を5年以上にわたり追跡した結果、超加工食品の摂取量が最も多い人では脳卒中や心疾患リスクが高まることが示された。Zhang氏らは今回、20112016年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを用い、20歳以上の男女13,446人を対象に収集したデータを分析した。

 参加者には、前日の食事内容に加えて、AHAが提唱する心疾患予防のための生活習慣因子「Life’s Simple 7」(血圧、脂質、血糖のコントロール、禁煙、健康的な食事、適正体重の維持、運動習慣)についても尋ねた。

 その結果、1日の摂取カロリーの約70%を超加工食品から摂取していた群では、40%以下だった群に比べて心血管の健康が理想的である確率は約半分であることが分かった。また、1日の摂取カロリーに占める超加工食品の割合が5%増えるごとに、全体的な心血管の健康度は低下していた。

 Zhang氏は「果物や野菜、全粒穀物などの健康的な食事は、心血管の健康を保つのに重要な役割を果たす。しかし、超加工食品はこれらの代替とされることが多い」と指摘。「さらに、超加工食品は塩分や糖分、飽和脂肪が多く、その他にも心疾患リスクの増加と関連する物質が多く含まれている」と説明している。

 専門家の一人で米ノースウェル・ヘルス、サンドラ・アトラス・バス心臓病院のBenjamin Hirsh氏は「この研究結果から、高度に加工された食品の消費量が多いほど、心臓の健康は悪化する可能性が示唆された」と述べている。一方、同じく専門家で米レノックス・ヒル病院のEugenia Gianos氏は「食事の質が低い人は、喫煙したり運動不足であったりする場合も多く、超加工食品が心臓の問題の直接的な原因であるとは言い切れない」と指摘している。

 しかし、Gianos氏は、超加工食品は栄養価が低く、炎症の亢進や腸内細菌バランスの崩れ、血管内のプラーク沈着を促す可能性があるとし、「栄養豊富な植物ベースの食品をそのまま食べることが健康に良いことを、もっと啓発していく必要がある」と付け加えている。

 なお、学会発表された研究結果は通常、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。

[20191112/HealthDayNews]

吸入ステロイド使用者、認知症リスクが35%低い

アルツハイマー病の病理学的カスケードにおいて神経炎症が重要な役割を示すことが報告され、神経炎症が治療標的として認識されてきている。今回、ドイツ・ロストック大学のMichael Nerius氏らが、ドイツにおける縦断的健康保険データを用いて認知症リスクに対するグルココルチコイドの影響を検討したところ、グルココルチコイドの使用が認知症リスクの低下に関連していることが示唆された。Journal of Alzheimer’s disease誌オンライン版20191118日号に掲載

 本研究では、50歳以上の176,485人のベースラインサンプルにおいて、ドイツ最大の健康保険会社の200413年の健康保険データを使用し、グルココルチコイド治療と認知症の発症率との関連を調べた。Cox比例ハザードモデルにより、性別、年齢、認知症の主要な危険因子として知られている併存疾患を調整後、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。さらに、グルココルチコイド治療について投与経路および治療期間で層別化して検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・認知症ではない176,485人のうち、2013年の終わりまでに19,938人が認知症と診断された。
・認知症発症リスクは、グルココルチコイド非使用者に比べ、使用者で有意に低かった(HR0.8195CI0.780.84)。
・投与経路別にみると、吸入グルココルチコイドの使用者で最もリスクが低く(HR0.6595CI0.570.75)、次いで点鼻(HR0.7695CI0.660.87)、その他(HR0.8495CI0.800.88)と経口(HR0.8395CI0.780.88)の使用者で低かった。
・長期使用者と短期使用者でリスク減少に差はなかった。

 著者らは「グルココルチコイドが神経炎症にプラスの影響を与え、人々から認知症から守ることができるかどうかを判断するには、前向き臨床試験が必要」としている。

認知症発症説の一つである「血糖値上昇」→「血中インスリン値上昇」→「インスリン抵抗性によるアミロイドβの蓄積」→「脳神経のアミロイドβの蓄積」→「認知症の発症」

糖質コルチコイドはその働きが血中の血糖値を上昇させるという働きを考えると、上記の認知症仮説から逸脱する臨床結果なのかどうか?

今後の前向きな臨床研究結果が気になるところです。

寝室の明るさが動脈硬化の進行と関連――睡眠中は暗い方が良い?

夜間の寝室の照明が明るいほど動脈硬化が進行する可能性が報告された。肥満や糖尿病などの既知の動脈硬化危険因子の影響を調整しても、なお有意な関連が認められるという。奈良県立医科大学疫学・予防医学講座の大林賢史氏らの研究によるもので、詳細は「Environment International1021日オンライン版に掲載された。

 ヒトは昼と夜が24時間周期で繰り返される環境で進化してきた結果、「概日リズム」という生理機能が備わっている。そのため、夜の不適切な明るさは「光害」として概日リズムを乱す可能性があり、これまでにも夜勤労働者で肥満や高血圧、糖尿病のリスクが高いことが報告されている。今回発表された論文は、夜間の寝室の明るさと動脈硬化の進行の関連を、縦断的に研究したものだ。

 前向きコホート研究「平城京スタディ」に登録されている60歳以上の地域住民を追跡調査し(観察期間中央値34カ月)、動脈硬化の指標である頸動脈IMT(首の動脈の血管壁の厚さ)を測定した。睡眠時の寝室の明るさのほか、動脈硬化の進行に関係する因子として、BMI、喫煙・飲酒習慣、糖尿病、高血圧、経済状況なども評価した。

 分析対象者数は989人で平均年齢71.4±6.9歳、男性が47.2%、観察開始時の頸動脈IMTは、平均IMT0.88±0.15mm、最大IMT1.10±0.32mm。照度計で測定した寝室の明るさにより対象者を4群に分け、観察期間中に頸動脈IMTが厚くなる程度に差があるかを比較検討した。寝室の明るさは、最も暗い第1四分位群が平均0ルクス、第2四分位群は0.3ルクス、第3四分位群は1.6ルクス、最も明るい第4四分位群は9.3ルクスだった。

 BMI、喫煙・飲酒習慣、糖尿病、高血圧、経済状況などを調整した多変量解析で、夜間の寝室が明るい群で有意に頸動脈の平均IMTが厚くなることがわかった(第4四分位群対第1四分位群:回帰係数=0.028P0.019)。同様に最大IMTも厚くなることがわかった(第4四分位群対第1四分位群:回帰係数=0.083P0.001。第3四分位群対第1四分位群:回帰係数=0.046P0.048)。

 以上の結果から大林氏らは「夜間の寝室の明るさが動脈硬化の進行と関連していることが示された。この関連は、年齢や肥満、喫煙、高血圧、糖尿病など、既知の動脈硬化危険因子とは独立していた」と結論をまとめている。

 今回の研究では、夜間の寝室の明るさが最も暗い群と最も明るい群で、頸動脈最大IMTの進行に0.083mmの差が見られた。先行研究の結果から、この差は心筋梗塞を10.0%、脳梗塞を11.6%増加させる差に相当すると著者らは述べている。

 また、夜間の寝室の明るさが動脈硬化を進行させる機序について、著者らは、概日リズムが乱れることにより、血管内皮機能の低下が生じること、交感神経活性が亢進すること、血管拡張作用のあるメラトニンの分泌が低下することなどが関与している可能性を考察している。

 なお、数名の著者が、住宅・建材関連企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

[20191111/HealthDayNews]



松果体(メラトニン生成)から分泌されるホルモンが血管拡張効果をつかさどっています。

つまり不適切なタイミングによる光刺激は結果的に血管の弾力性を損なう原因の一つであるというこの臨床報告からは、スマホの長期使用などによるブルーライトからの悪影響などはよくよく注意が必要であるのでしょう。

勃起不全が心房細動リスク上昇と関連

勃起不全(勃起障害、ED)の男性は、心房細動と診断される傾向が強いことが新たな研究で明らかにされた。心房細動は不整脈の一種で、血栓、脳卒中、心不全の原因となることもある。米国では最大610万人がこの疾患に罹患しているとされる。研究の詳細は、米国心臓協会の年次集会(AHA 2019111618日、米フィラデルフィア)で発表された。

 過去の研究では、EDは心血管疾患と関連することが示されていた。そこで研究グループは今回、心房細動がこの知見にどう当てはまるのかを明らかにしようと試みた。研究を率いた米ノースウエスタン大学の循環器専門医である田中仁啓氏は、「EDの症状が心血管疾患の23年前に現れることはよく知られている。EDの症状を後の心房細動を予測する指標として利用できれば、患者を早期に治療できる可能性があるし、うまくいけば疾患の進行を止めることもできるかもしれない」と期待を示す。

 研究では、心房細動の既往のない高齢男性1,760人を対象とした。4年後に心房細動と診断された人の割合は、EDがあると申告した男性では9.6%だったのに対し、EDのない男性では2.9%であった。喫煙、体重、糖尿病、血圧などのリスク因子を考慮しても、EDのある男性が心房細動と診断される確率はEDのない男性と比べて66%高かった。

 この結果について田中氏は、「かなり強い関連性が認められた。医師は、EDが認められる患者に対しては、その他の心血管リスク因子について調べ、できる限り早く治療を開始するべきだ」と述べている。

 この研究の弱点の1つは、EDの有無は患者の自己申告によるものであり、それが血管の問題によるものなのか、あるいは心理的問題によるものなのかを研究チームが把握していない点である。田中氏はさらに、「不整脈は突然現れたり消えたりするため、患者の中には症状を訴えない人もいる」として、心房細動の検出が極めて難しい点も研究の限界として挙げている。同氏は今後の研究で、テストステロン値、EDと心房細動の相互作用を掘り下げていきたいとしている。

 今回の研究には関与していない、米ジョンズ・ホプキンズ大学病院のHugh Calkins氏は、「私の担当する男性患者においてもEDは非常に多く認められるが、この研究結果には納得させられるものがあった」と話す。そして、「大変独創的な研究だ。このテーマに関する研究が今後、間違いなく展開していくだろうし、血管の健康とED、心房細動の関係についての議論も進むだろう」と今後の展開を予測する。なお、同氏は、AHA、米国心臓病学会(ACC)、および米国不整脈学会(HRS)が共同で最近改訂した心房細動ガイドラインの著者の一人である。

 Calkins氏はさらに、EDと「隠れ心房細動」とも呼ばれる無症候性心房細動との関連について研究を重ねていく必要があると指摘する。「無症候性心房細動のスクリーニングは近年注目されている領域である。ED患者はもれなく、7日間のモニターやスマートウォッチを用いた心房細動のスクリーニングを1年に1度受けるべきかという問題が当然出てくるが、研究結果は、スクリーニングを受けることが糖尿病や体重管理、睡眠時無呼吸といったリスク因子に対する早期の対応につながることを示唆している」と説明している。

[2019
1119/American Heart Association]

アルツハイマー病を防ぐ変異を持つ症例

アミロイドβの高度な沈着は見られるが、アルツハイマー病を発症しない…。そんなまれな症例を、米国・ハーバード大学医科大学院のJoseph F. Arboleda-Velasquez氏らが Nature Medicine201911月号に報告した。今回の発見により、アルツハイマー病の予防や治療に、新たな選択肢がもたらされるかもしれない。

 報告された症例は、アルツハイマー病になりやすい変異(E280A プレセニリン-1)を持つ家系から見つかった。対象症例の患者の家系では、軽度認知症を中央値44歳(95CI4345)、認知症を中央値49歳(95CI4950)で発症することが報告されているが、今回の症例は70歳まで軽度認知症を発症しなかった。

 アルツハイマー病は、アミロイドβの脳への沈着が引き金となり、タウタンパク質が凝集し、神経細胞死に至ることで発症すると考えられている。著者らは脳画像検査を実施し、所見を確認した。すると、アミロイドβの沈着は非常に高度にもかかわらず、タウタンパク質の凝集や神経変性はあまり見られなかった。

 症例のゲノムを調べたところ、プレセニリン-1のほかに、アルツハイマー病との関連が知られるAPOE3タンパク質に変異があった。このAPOE3タンパク質の変異が、アルツハイマー病の発症に関わる糖タンパク質との結合を阻害することも突き止められた。

 これらの結果から、APOE3タンパク質の変異によって、APOE3タンパク質と糖タンパク質の結合が阻害されたことで、アミロイドβ沈着が高度でもアルツハイマー病が発症しなかった可能性が示唆された。著者らは、APOEタンパク質の発現抑制や、糖タンパク質の結合部位の調節が、アルツハイマー病の予防や治療に貢献できるのでは、と期待を示している。



脳年齢はパソコンやゲームで維持できる?

年齢を重ねても、パソコン操作やゲーム、社会参加などを通じて脳を活性化させていれば、記憶力の低下を回避できるかもしれない。そんな研究結果が、米メイヨー・クリニックの精神科医であるYonas Geda氏らにより示された。加齢に伴う記憶力の低下は、アルツハイマー病などの認知症の前段階にみられる軽度認知障害(MCI)の兆候の一つだ。しかし、Geda氏らによると、脳を働かせ続けることで明晰な状態を保つことができる上に、年齢に関係なく効果が得られるという。詳細は、「Neurology710日オンライン版に発表された。

 Geda氏らは、研究開始時にMCIがなかった70歳以上(平均年齢78歳)の男女2,000人を対象に、中央値で5年間追跡。研究参加者は、5065歳時(中年期)および66歳以降(高齢期)に行っていた脳を刺激する活動(読書、パソコン操作、社会活動、ゲーム、クラフト活動)に関する質問に回答したほか、5年間にわたって15カ月ごとに思考力と記憶力の検査を受けた。この期間に532人がMCIを発症した。

 これらのデータをGeda氏らが解析した結果、中年期にパソコンを使用していた人では使用していなかった人に比べ、MCIを発症するリスクが48%低かった。同様に、66歳以降にパソコンを使用していた人ではMCIリスクが30%低く、中年期および高齢期にパソコンを使用していた人では37%低いことも示された。

 また、友人と交流したり、映画を観に行ったりするなど社会活動の機会がある人や、ゲームを楽しむ機会がある人では、MCIリスクが20%低かった。クラフト活動では、高齢期でのみMCIリスクが42%低下していた。

 そのほか、こうした頭を使う活動の種類が増えるほどMCIを発症するリスクは低下することも示された。例えば、頭を使う活動の機会が全くない場合と比べて、2種類の活動で28%、3種類の活動で45%、4種類の活動で56%、5種類の活動で43%のリスク低下が認められた。

 なぜ、頭を使っていれば認知機能が低下しにくくなるのか。現時点でその理由は不明だが、Geda氏は「頭は使えば使うほど脳がポジティブに反応するようだ」と話す。また、「頭を使う活動の機会が多い人は、運動習慣や健康的な食習慣など他の行動面でも優れている可能性がある。こうした習慣は脳の健康に良い影響を与える」と説明している。

 一方、論文の筆頭著者である同クリニックのJanina Krell-Roesch氏は、この研究について「観察研究であるため、頭を使う活動とMCIリスクに関連が認められたにすぎない」と説明。こうした活動でMCIを予防できることが証明されたわけではないとして、慎重な解釈を求めている。

 ただし、Geda氏は「70歳以上になっても頭を使う活動に取り組むことは有益だ。今回の研究では何歳になってもこうした活動を始めるのに遅すぎることはないことが示された」と付け加えている。

 今回の報告を受け、この研究には関与していない専門家の一人で米アルツハイマー病協会のHeather Snyder氏は「加齢に伴い衰える脳の健康を維持し、認知機能が低下するリスクを低減する方法はあることを示すエビデンスは増えつつある。今回の研究結果も、それらのエビデンスに一致するものだ」とコメント。また、「可能であれば脳の健康は死ぬまで維持したいものだ。精神的にも社会的にも刺激に富んだ多様な活動に、生涯取り組んでいくことが重要だ」と話している。

[2019710/HealthDayNews]

2型糖尿病リスク、遺伝的負荷と食事脂肪の交互作用なし

遺伝的負荷と食事脂肪の質は、それぞれ2型糖尿病の新規発生と関連しており、2型糖尿病の発生に関して遺伝的負荷と食事脂肪の質に交互作用はないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のJordi Merino氏らCHARGE Consortium Nutrition Working Groupの検討で示された。研究の詳細は、BMJ2019725日号に掲載された。2型糖尿病は、遺伝因子や生活習慣因子の影響を強く受ける複雑な疾患であり、食事の質の改善を目指す推奨は、2型糖尿病の予防と治療における重要な要因とされる。

遺伝的負荷、食事脂肪と2型糖尿病の関連を評価するメタ解析

 研究グループは、2型糖尿病の遺伝的負荷が、食事に含まれる脂肪と2型糖尿病の発生の関連を修飾するかを検討する目的で、個々の試験参加者のデータのメタ解析を行った。

 主要な医学データベースを検索し、19701月~20172月の期間に発表された前向きコホート研究を系統的に収集した。参加者が欧州人家系で、食事脂肪の質および2型糖尿病の発生に関するゲノムワイドの遺伝的データや情報を含むコホート研究またはマルチコホート・コンソーシアムのデータを探した。対象は、追跡期間が5年以上の前向きコホート研究とした。

 2型糖尿病の遺伝的リスクプロファイルは、効果量で重み付けされた68種の遺伝子バリアントの多遺伝子性リスクスコアで表された。食事は、妥当性が検証されたコホート特異的な食事評価ツールを用いて記録された。

 主要アウトカムは、2型糖尿病の新規発生と、(1)多遺伝子性リスクスコア、(2)炭水化物(精製デンプン、砂糖)の、等価カロリーの各種脂肪への置き換え、(3)脂肪のタイプと多遺伝子性リスクスコアの交互作用、との関連とし、要約補正後ハザード比(HR)を算出した。

炭水化物を一価不飽和脂肪で代替すると糖尿病リスクが増加

 15件の前向き研究に参加した102,305例が解析に含まれた。追跡期間中央値12年(IQR9.414.2)の時点で、215例(19.6%)が2型糖尿病を発症した。

 人口統計学的因子、生活様式関連因子、臨床的な背景因子で補正すると、多遺伝子性リスクスコアにおけるリスクアレル(risk alleles)数の10増加ごとの2型糖尿病のHR1.6495%信頼区間[CI]1.541.75p0.001I27.1%、τ20.003)であり、有意な関連が認められた。

 食事脂肪の質と2型糖尿病リスクの関連のメタ解析では、炭水化物の代替として多価不飽和脂肪(ω3ω6)および総ω6多価不飽和脂肪の摂取量を増やすと、2型糖尿病のリスクが低下し、補正後HRはそれぞれ0.9095CI0.820.98p0.02I218.0%、τ20.006、摂取エネルギーの5%増加ごと)および0.990.971.00p0.05I258.8%、τ20.0011g/日増加ごと)であった。

 一方、炭水化物の代替として一価不飽和脂肪(オレイン酸、パルミトレイン酸、ゴンドイン酸、エルカ酸、ネルボン酸)を増やすと、2型糖尿病リスクが増加した(補正後HR1.1095CI1.011.19p0.04I225.9%、τ20.006、摂取エネルギーの5%増加ごと)。

 炭水化物を等価カロリーの総脂肪、飽和脂肪、総ω3多価不飽和脂肪、トランス脂肪でそれぞれ置き換えても、2型糖尿病リスクとは関連しなかった。

 多価不飽和脂肪と2型糖尿病リスクの全体的な関連には、小規模研究効果(small study effects:小規模研究によって、より大きな効果が示されること。出版バイアス、より小さな研究における方法論の質の低さ、真の異質性、アーチファクト、偶然などによる)のエビデンス(Debray検定:p0.05)が得られたが、ω6多価不飽和脂肪(p0.70)および一価不飽和脂肪(p0.64)と2型糖尿病リスクの関連には、このエビデンスは認めなかった。

 事後解析として、飽和脂肪を等価カロリーの不飽和脂肪で置換したところ、2型糖尿病リスクが低下した(補正後HR0.9195CI0.850.98p0.02I247.2%、τ20.02、摂取エネルギーの5%増加ごと)。
 2型糖尿病リスクに関して、食事脂肪と多遺伝子性リスクスコアの間に有意な交互作用は認めなかった(交互作用:p0.05)。

 著者は、「これらの知見は、2型糖尿病の1次予防において、2型糖尿病の遺伝的リスクプロファイル別に、食事脂肪の種類を個別に推奨する方法を支持せず、食事脂肪は2型糖尿病の遺伝的リスクのスペクトラム全般において2型糖尿病リスクと関連することが示唆される」とし、「食事や生活習慣への介入は、遺伝的リスクにかかわらずに行うべきと考えられる」としている。