歯磨きやフロス使用は脳卒中予防につながる?

歯周病がある人では、動脈硬化が進行し、脳の血管の一部が閉塞して発症する脳梗塞のリスクが高まる可能性があることが、米サウスカロライナ医科大学臨床神経学部長のSouvik Sen氏らが行った2件の研究から示された。歯周病と他のリスク因子を同時に治療すると、脳動脈内のプラーク蓄積や血管閉塞が抑えられ、結果として脳梗塞の予防に役立つ可能性があるという。これらの研究結果は、国際脳卒中学会(ISC 202021921日、米ロサンゼルス)で発表された。

 Sen氏らは今回、アテローム性動脈硬化症の発症や進行には、炎症が明らかに強く関与していると見られる点に着目。歯周病と脳血管の閉塞や動脈硬化によって引き起こされる脳梗塞との関連について調べた。

 最初の研究では、20152017年に脳卒中を発症した患者265人(平均年齢64歳、男性56%)を対象に、歯周病の有無と特定のタイプの脳卒中との関連を調べた。

 その結果、歯周病のある患者では、歯周病のない患者と比べて脳梗塞を発症する確率が2倍であることが分かった。また、歯周病のある患者では、視力や協調運動などの脳機能を制御する大脳後部の血管に梗塞を起こす確率が3倍に上っていた。さらに、歯周病は、脳の大血管に梗塞を起こした患者で多く見られたが、その他の部位に脳梗塞を起こした患者ではそれほど多くはなかった。

 次の研究では、脳卒中の既往がない成人1,145人(平均年齢76歳、女性55%)を対象に、MRI画像を用いて脳動脈の閉塞を評価した。その結果、参加者の10%では、脳動脈に50%以上の重度の狭窄が認められた。また、歯肉炎のある人では、ない人と比べて脳動脈に重度の狭窄が見られる確率が2倍であった。さらに、年齢や高血圧、高コレステロールなどのリスク因子で調整すると、歯肉炎のある人では、脳動脈に重度の狭窄が見られる確率が2.4倍であった。

 これらの研究結果は、歯周病が脳梗塞の原因であることを証明するものではない。しかし、Sen氏は「診療に当たる医師は、歯周病は炎症を伴う細菌感染症であることを十分に認識し、患者と協力して治療に取り組むことが重要だ」と強調。現在、歯周病を治療すると脳卒中リスクが低下するのか否かを調べる研究に取り組んでいるという。

 なお、学会発表された研究結果は、一般に査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。

[2020213/HealthDayNews]

家庭への有害物質の持ち帰りに注意

有害な化学物質や鉛などの金属を扱う仕事をする人は、気づかないうちに家庭に有害物質を持ち帰っている可能性がある――。そんな研究結果を、米ボストン大学のDiana Ceballos氏らが「Annals of Work Exposures and Health129日オンライン版に発表した。職場から持ち帰った有害物質は、家族、特に子どもの健康に深刻な悪影響を与えるという。

 Ceballos氏は、「米国労働安全衛生局(OSHA)の規制に従って、企業として職場での有害物質の取り扱いに安全策を講じていても、家庭への持ち帰りは規制上、盲点となっている可能性がある」と指摘。「現行の規制は、従業員の家族を含む全ての人の健康を守るのには十分ではないかもしれない」と述べている。

 Ceballos氏は、産業衛生士として米疾病対策センター(CDC)に所属していた時に、家電製品のリサイクル施設で働く父親が持ち帰った鉛が原因で、中毒になった2人の子どもの事例を経験した。この父親は、古い家電製品のブラウン管に使われていた鉛ガラスを粉砕する作業を行っていた。職場の鉛の曝露量は、成人男性の健康に悪影響を与えるほどではなかったが、父親の身体や作業衣に付着して家庭内に持ち込まれた鉛の粉塵量は、子どもたちにとっては危険なレベルだった。

 父親がその職場で働き始めて約1年が経過した頃、子どもたちの鉛の血中濃度が異常に高いことが発覚した。その後、子どもたちに行動や発達、学習面での問題といった鉛中毒の症状が現れ始めたという。

 Ceballos氏らは、有害物質の家庭内曝露の有名な事例として、1970年代のアスベスト被害を挙げる。労働者が作業衣などを通して自宅に持ち帰ったアスベスト粉塵を家族が吸入した結果、家族が悪性中皮腫などのがんを発症する被害が起こり、社会問題となった。

 このような家庭内曝露のリスクが高い職種は数多くあり、家電製品のリサイクル業や農業、建築業などが挙げられる。他にも、これまでの研究では、パン屋の子どもたちは喘息やアレルギー性疾患のリスクが高いことが報告されている。これは家庭に持ち込まれた小麦粉に子どもたちが曝露し、小麦に感作されたためである可能性が高いと考えられている。

 現状では、有害物質の家庭内曝露の危険性は、労働者の間でもほとんど知られていない。先ほどの事例の父親も、自分の仕事にこのようなリスクがあるとは夢にも思っていなかったという。しかし、「有害物質の家庭内曝露は防げるはずだ」とCeballos氏は強調する。家庭内曝露を防ぐために、企業は、職場の有害物質の使用を制限し、職場と家庭内の曝露を減らす方法について従業員に対して研修を行うべきだとしている。さらに、「有害物質の家庭への持ち帰りを防ぐための規制を整備する必要がある」と同氏は付け加えている。

 また、家庭への有害物質の持ち込みを減らすため、Ceballos氏は、職場を出る前に手や顔を洗ったり、シャワーを浴びたりして有害物質を洗い流すことや、用意しておいた衣服に着替え、靴を履き替えることなどを勧めている。また、車通勤の人は、汚染されたほこりがたまりやすい車内も清潔にするよう助言している。

[202026/HealthDayNews]

心不全の急増と治療の進歩 AHAニュース

Aimee Rodriguez-Zepeda氏が医師から悪い知らせを伝えられたのは、子宮がんの化学療法が終了した日から約6年後のことだった。その時、彼女の心臓は20%しか機能していなかった。元海兵隊員である彼女を子宮がんから救った化学療法が、心血管疾患の遺伝的背景と相まって、心不全を引き起こしたのだ。

 2014年、39歳の時に心不全の診断を受けた彼女は、「私の身体は時限爆弾のようなものだったのだろう」と語り、「化学療法で健康を取り戻す代償として、薬の副作用で体がダメージを受けることに、今もってあまり注意が払われていないのではないか」と述べている。

 かつては致命的な疾患と捉えられていた心不全だが、状況は徐々に変化してきている。現在では、生活習慣の改善や薬剤、埋め込み型デバイス、手術などの進歩により、十年以上、あるいは数十年にわたり管理可能となってきている。それに伴い患者数も急増し、米国には現在600万人の心不全患者がいて、高齢化に伴い2030年までに800万人に達すると見込まれている。

 心不全の原因としては、心筋梗塞や高血圧、先天性心疾患、糖尿病、肺疾患、飲酒などが多く、がんに対する化学療法や放射線治療もリスクを高める。また、米メイヨークリニックのShannon Dunlay氏は、「有病率の上昇には多くの因子が関与しているが、理由の1つは単に平均寿命が延びているということだ。心不全リスクは加齢に伴い上昇する」と指摘する。

 「治療の基本は薬物治療」と、米ペンシルベニア大学のAnjali Tiku Owens氏は言う。治療薬には、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬、β遮断薬などいくつかの種類がある。最近、米食品医薬品局(FDA)は、初のアンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬の合剤(ARNi)である新薬、サクビトリル/バルサルタンを承認した。

 これらの薬剤に加え、Dunlay氏は「ほかの疾患の治療薬が心不全の治療にも有効な場合がある」として、糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬に関する最近の臨床試験結果を紹介している。この試験では、心臓のポンプとしての出力が低下した心不全患者にSGLT2阻害薬を投与したところ、糖尿病の有無に関わらず病状の悪化と心血管死のリスクが減少することが明らかとなった。

 ただ、Dunlay氏とOwens氏はともに「心不全の治療に最も効果的な手段の1つは、生活習慣を改善することだ」と指摘する。この点に関連し、冒頭のRodriguez-Zepeda氏も、「心不全を管理するのに、食生活を変えたり運動を行ったことが最も効果的だったと感じている」と語っている。

 患者自身がすべきことについて、Dunlay氏は「やるべきことはたくさんある。毎日決められた時間に薬を服用し、運動をして、水分摂取量を管理すること。特に、体重増加は体内に余分な水分が貯留している可能性を示す重要な兆候の1つであり、毎朝の体重測定を忘れずに行うべき」としている。そして「もし体重が5ポンド(2.27kg)以上増えていたら、薬を調整すべきか検討が必要であるため、医療機関に連絡をとるべきだ」と解説している。

 Owens氏によると、薬物治療や生活習慣の改善、埋め込み型デバイスなどの効果が十分でなく心臓移植が唯一の望みになる患者もいるが、そうしたケースは稀だという。そして同氏は、心不全治療の目標を「単に寿命を延ばすだけでなく、より快適に生きることだ」としている。具体的には「充実した人生を送っているか、それとも入退院を繰り返している人生なのか」の違いだとし、医療従事者に対しても「心不全と診断したら、患者の生活の質にも焦点を当てて、患者と治療目標について話し合いを続ける必要がある」と述べている。

[2020
23/American Heart Association] 

視力と認知症との関係

200018年の大手製薬会社35社の収益性は、代表的な他業種の米国上場企業357社と比べて有意に高いが、その差について、会社の規模、会計年度、研究開発費を考慮すると、必ずしもそうとは断言できないというエビデンスが示された。米国・ベントレー大学のFred D. Ledley氏らによる検討の結果で、著者は「大手製薬会社の収益性に関するデータは、医療をより利用しやすくする根拠に基づく施策を作成するために重要とはいえるだろう」とまとめている。JAMA202033日号掲載の報告。

視力の低下と認知症リスクとの関連を調査した縦断的エビデンスの結果は一致していない。香港中文大学のAllen T. C. Lee氏らは、誤分類、逆因果関係、健康上の問題や行動による交絡因子に関連するバイアスとは無関係に、高齢者の大規模なコミュニティーコホートにおける視力低下と認知症発症率との関連を調査した。The Journals of GerontologySeries Aオンライン版2020211日号の報告。

 ベースライン時に認知症でない地域在住高齢者15,576例を対象に、認知症発症について6年間フォローアップを行った。認知症診断は、ICD-10または臨床的認知症尺度(CDR13に従って実施した。ベースラインおよびフォローアップ時の視力評価には、スネレン視力表を用いた。人口統計(年齢、性別、教育、社会経済的地位)、身体的および精神医学的併存疾患(心血管リスク、眼科的状態、聴覚障害、運動不足、うつ病)、ライフスタイル(喫煙、食事、身体活動、知的活動、社会活動)についても評価した。

 主な結果は以下のとおり。

68,904人年以上のフォローアップ期間中に、1,349例が認知症を発症した。
・ベースライン時の視力低下は、人口統計、健康上の問題、ライフスタイルで調整した後でも、また3年以内の認知症発症を除外した場合でも、6年後の認知症発症率の高さと関連が認められた。
・正常な視力の高齢者と比較した、視力低下の重症度別の認知症ハザード比(HR)は、以下のとおりであった。
 ●軽度 HR1.19p0.31
 ●中等度 HR2.09p0.001
 ●重度 HR8.66p0.001

 著者らは「中等度から重度の視覚障害は、認知症の潜在的な予測因子およびリスク因子である可能性がある。臨床的な観点から、視力が低下している高齢者に対する認知症リスク評価のさらなる必要性が示唆された」としている。

魚油サプリ、全死因死亡と心血管疾患死リスクを低下/BMJ

魚油サプリメントの摂取は、全死因死亡および心血管疾患(CVD)死亡のリスク低下と関連し、一般集団においてCVDイベントに対して最低限の有益性をもたらす可能性があることが示された。中国・南方医科大学のZhi-Hao Li氏らが、大規模前向きコホート研究の結果を報告した。魚油サプリメントは、英国やその他の先進国でよく用いられており、最近の無作為化比較試験13件を対象としたメタ解析で、オメガ3脂肪酸サプリメントと比較して、わずかではあるが有意なCVDの予防効果が示唆された。ただし無作為化試験での魚油サプリメント摂取は、理想的な管理下で評価されたものであり、結果を大規模かつ多様な集団に一般化することは難しいことから、研究グループは、リアルライフ設定での大規模コホート研究で評価を行った。BMJ202034日号掲載の報告。

42万人超の大規模前向きコホート研究

 研究グループは200610年にUK Biobankに登録された参加者のうち、ベースラインでCVDあるいはがんを有していない4069歳の男女427,678例について、2018年末まで追跡調査した。全参加者は、魚油を含むサプリメントの常用に関する質問票に回答した。

 主要評価項目は全死因死亡、CVD死亡、CVDイベントとし、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。

高血圧者で関連性はより強い

 ベースラインで427,678例中133,438例(31.2%)が魚油サプリメントを常用していた。

 非常用者に対する常用者の多変量補正ハザード比(HR)は、全死因死亡が0.8795%信頼区間[CI]0.830.90)、CVD死亡が0.8495CI0.780.91)、CVDイベントが0.9395CI0.900.96)であった。CVDイベントに関しては、高血圧症を有する参加者においてこの関連性はより強い傾向があった(交互作用p0.005)。

 著者は、研究の限界として魚油サプリメントに関する詳細情報(用量、剤形、使用期間)の記録がなかったこと、残余交絡因子あるいは逆の因果関係が存在する可能性などを挙げたうえで、「今後、さらなる研究で魚油サプリメントの用量が臨床的に意味のある効果にどのように影響を及ぼすかを調べる必要がある」とまとめている。

健康の秘訣は良好な人間関係? AHAニュース

80年代のロックミュージシャン、ヒューイ・ルイスは「愛の力は不思議なもの 君の人生だって救ってくれるかもしれない」と歌ったが、実際に愛には、人を健康で長生きさせる力があるようだ。

 支え合う相手がいること、特に結婚が健康に有益であることは、これまで数々の研究で示されてきた。2017年に「Journal of the American Heart Association」に発表された研究では、未婚の心疾患患者は既婚の心疾患患者に比べ、約4年後に心筋梗塞を起こすか、心血管疾患により死亡する率が52%高いことが示された。国立健康統計センター(NCHS)によると、既婚者の死亡率は、結婚経験のない人、離婚した人、配偶者と死別した人に比べて低いという。そのほか、恋人の写真を見るだけで、気分や痛みの制御に関わる脳の領域が活性化することや、パートナーのことを考えることが血糖値にプラスの影響を及ぼし、活力の上昇をもたらすことを報告する研究もある。

 ハーバード成人発達研究は、1938年から2つのグループの男性を追跡している。この研究を率いるRobert Waldinger氏が、研究成果に関して行ったTED講演「What makes a good life?(人生を幸せにするものは何?)」は、数千万回以上再生されている。この研究で明らかになったことの中で特に興味深いのは、中年期の安定した人間関係は、30年後の健康と幸福を予測する因子としては、コレステロール値よりも強力であるということだ。「この研究から分かったことは、“良好な人間関係が幸福と健康をもたらす”というメッセージにほかならない」と同氏は主張する。

 では、なぜ良好な人間関係が健康に良いのか。Waldinger氏は、良好な人間関係が、恐怖や怒りを感じたときに生じる闘争・逃走反応を和らげてくれるという仮説を述べている。「嫌なことがあった日でも、家に帰ってそのことを話せる相手がいれば、気持ちが軽くなっていくのを感じるだろう。聞き上手で励ましてくれる人ならなおさらだ」と同氏は話す。手を握ったり抱きしめたりといったスキンシップもストレスホルモンを低減させることが、研究で明らかにされている。

 米ブリガム・ヤング大学心理学・神経科学教授のJulianne Holt-Lunstad氏は、ストレスの緩和にとどまらず、支えとなるパートナーがいることで、運動やより良い食生活を心がけ、必要なときは医者に行くといった具合に、健康的な生活が促されている可能性があると指摘する。彼女が率いた別の研究では、結婚の効果はその質によって左右されることも分かった。幸せな結婚生活を送っている人は、未婚者に比べ血圧が低かったが、結婚生活がうまくいっていない人は独身者よりも血圧が高いという結果が得られたからだ。「結婚であれ何であれ、良好な人間関係というものは、信頼と安心で成り立っている。それには、相手が自分のニーズに応えてくれるのと同じように、自分も相手のニーズに応える必要がある。一方通行の関係は良好とは言えない」と同氏は説明している。

 Waldinger氏によると、必ずしも結婚や同居をしていなくても、必要なときに支えてくれる人がいると分かっていることが重要だという。根底に愛情があれば、言い争いが結婚の破綻につながることはないことも、同氏が以前行った研究から分かっている。「幸せな結婚のあり方はそれぞれに違っている。大切なのは、相手との相性ではないだろうか。人との関係において、頻繁な連絡や親密性を重視する人もいれば、そうしたことをさほど重視しない人もいる」と同氏は述べている。

 一方、Holt-Lunstad氏は、「人間関係は、体の健康、特に心臓に大きな影響を及ぼすことをもっと多くの人が知るべきだ」と述べ、「運動や禁煙が与える影響に関してはすっかりメッセージが広まった感があるが、今後は人間関係が与える影響についても同様に伝えていく必要がある」と付け加えている。

[2020
25/American Heart Association] 

目の健康への過信が視覚障害の一因

目の健康について「よく知っている」と思っている人が8割に及ぶものの、実際に正しく理解している人は少ないことがわかった。米国眼科学会(AAO)の調査によるもので113日に公表された。

 この調査は、AAOの委託を受けた調査会社が20198月にオンラインで実施した。対象は18歳以上の成人3,512人で、性別、年齢、地域、収入、教育レベル、世帯規模、配偶者の有無、就労状況などは米国の平均と一致するよう調整した。

 回答者の5人に4人(81%)が「自分は目の健康に関する知識がある」と答えた。しかし、米国における失明原因の3大疾患が、緑内障、加齢黄斑変性、糖尿病性眼疾患であることを正しく回答できたのは5人に1人(19%)にとどまった。また、半数以上(57%)は、視力低下がけがや死亡のリスクを高めることを知っていたものの、視力低下が始まっていても脳が視覚情報を補うために症状に気付くことが困難であると知っていたのは、半数以下の47%にとどまった。

 さらに、失明に至る前に自覚症状が現れるとは限らないことや、視力低下が社会的孤立やうつ病などに関連していることを知っていたのは、それぞれ37%、24%であり、失明リスクに関する一般市民の認識が高いとは言えない実態が明らかになった。

 この調査結果を受けAAO会長のAnne Coleman 氏は、「重篤な視覚障害が避けられないほど手遅れになってから、初めて眼科医の診察を受ける患者があまりに多い」と問題点を指摘し、「全ての米国人が目の健康に対してしっかりとした考え方をもってほしい。それは、眼の疾患について自分自身で学び、眼科医の診察を受けることから始まる」と述べている。

 AAOによると、「他の調査の結果では、がんや脳卒中、心疾患などの重篤な疾患に対する不安よりも、人々は視覚障害の発生を恐れる傾向があることが示されている。しかし、そのような恐れを抱いているのにも関わらず、多くの米国人が視覚障害についてほとんど知らないことが今回の調査で明らかになった」としている。

 なお、AAOは健康な成人に対して、40歳になるまでに眼科医による基礎検査を受けるべきであり、65歳以上では年に12回、またはそれ以上の頻度での眼科検診を推奨している。

[2020126/HealthDayNews]

冠動脈ステントのポリマー論争に決着か?

PCIに用いる金属製の薬物溶出性ステントの比較試験の結果がNEJM誌に掲載された。Onyx ONE試験の結果で、すでにケアネットのジャーナル四天王でも紹介されている(高出血リスクへのPCIステント、ポリマーベースvs.ポリマーフリー/NEJM)。その概要は、耐久性ポリマーを使用したステントと、ポリマーフリーのステントを比較して、安全性および有効性の複合アウトカムにおいて非劣性であったという内容である。

 第1世代の薬物溶出性ステントのCypherで遅発性・超遅発性ステント血栓症が問題となった。その原因として、薬剤の放出をコントロールするためのポリマーが、過敏性反応から炎症惹起性があることが原因とされた。ポリマー性悪説が掲げられ、生体吸収性ポリマーや生分解性ポリマーなどの、消えてなくなるポリマーのステントが開発された。さらにポリマーを用いることなく薬剤放出をコントロールする、ポリマーフリーのステントが開発されるに至った。一方で、ポリマーの生体適合性が向上し、抗血栓性を内在するポリマーなど、ポリマー性善説も登場してきた。このように、薬物溶出性ステントを巡るポリマー論争は長い歴史がある。耐久性ポリマーvs.生分解性ポリマーの比較試験もいくつも施行された。そして、耐久性ポリマーvs.ポリマーフリーの比較試験が今回の論文である。いずれの試験も非劣性試験のデザインが大半で、わずかの差異を声高に誇る研究もあるが、結果を総括すれば「ほぼ同等」である。つまり新世代の金属製の薬物溶出性ステントはポリマーの有無にかかわらず成熟が進み完成形に近づいていることを示している。

 小生はNEJM誌に掲載された本論文のタイトルに注目してみた。「Polymer-based or Polymer-free Stents in Patients at High Bleeding Risk」である。直訳すれば、「高出血リスク患者への、ポリマーベースまたはポリマーフリーのステント」となる。本研究で比較された2種類のステントの名称を正確に表記すれば、耐久性ポリマー・ゾタロリムス溶出性ステント(Resolute Onyx)と、ポリマーフリー・バイオリムスA9umirolimus)コーティッドステント(BioFreedom DCS)である。しかし、このような具体的な名称はタイトルには一切ない。これは、NEJM誌のプライドを感じさせる。NEJM誌に掲載されるべき内容は個々のステント商品の比較という世俗的なレベルではなく、ステントのポリマー論争そのものに決着をつける普遍的真理である、という編集部の考えが示されている。

 医療ではなく司法の領域では、最高裁判所は日本における最終の法解釈機関である。最高裁判所の判断は、通常「判例」として扱われ法律に近い意義を持つという。この雰囲気に近い矜持を感じるのである。もちろん、NEJM誌の掲載内容を常に真理として、無批判に容認することを勧めるものではない。あらゆる論文には批判的に疑って読むことも重要である。一方で、この個々の2つのステントの比較試験という内容がNEJM誌に掲載されたのは、「ほぼ同等」という結論が真実に近いレベルに達していることを示唆している、だからこそNEJM誌に採択されたという一面も感じたので、あえて私見を紹介した。

幼少期の被虐体験が高齢期の医療費増加の一因――東京医科歯科大学

幼少期に虐待を受けた人は高齢になってからの医療費が1年当たり11万円以上高いとする推算結果が、「JAMA Network Open18日オンライン版に掲載された。日本全体では、年総額約3,330億円の医療費負担につながっているという。

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の伊角彩氏らは、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータと健診および診療報酬請求データを用いて、高齢者の医療費を幼少期の被虐体験の有無で比較検討した。研究対象はJAGESに参加しているある政令指定都市の要介護認定を受けていない6575歳の住民のうち、幼少期の被虐体験に関する質問に回答した978人(平均年齢70.6±2.9歳、うち男性が43.6%)。

 幼少期の被虐体験は、家庭内暴力の目撃、身体的虐待、心理的ネグレクト、心理的虐待の4項目を評価した。例えば「父親が母親に対して暴力を振るっていた」という質問に「はい」と回答した場合は「家庭内暴力の目撃経験あり」、「親から愛されていると感じていた」に「いいえ」と回答した場合は「心理的ネグレクトの経験あり」と判定した。

 対象者978人のうち、4.5%が家庭内暴力の目撃、1.9%が身体的虐待、10.6%が心理的ネグレクト、5.7%が心理的虐待を経験していて、18.0%は何かしらの被虐体験があった。幼少期の被虐体験がある人はない人に比べ、教育歴が短く、主観的健康感が低く、腎疾患や筋骨格疾患などの有病率が有意に高かった。

 幼少期の被虐体験の有無別に年間医療費(歯科医療費を除く)を試算すると、被虐体験がない場合は413,013円、被虐体験ありでは549,468円で、その差額は136,456円に上り、有意差が認められた。年齢と性別で調整すると差額は116,098円に縮小したものの引き続き有意だった。

 虐待の種別に見ると、身体的虐待については経験なしで431,106円、経験ありで726,254円、差額295,148円、心理的ネグレクトは経験なしで412,082円、経験ありで573,481円、差額161,400円で、これらの差はいずれも有意だった(年齢と性別で調整後は非有意)。家庭内暴力の目撃の有無や心理的虐待の有無では有意差は認められなかった。

 前述の116,098円という差額を基に、国内の前期高齢者医療コスト全体への影響を計算すると、歯科医療費を除いて年間約3,330億円の医療費が幼少期の被虐体験により発生していると推計された。

 これらの結果を踏まえ研究グループでは、「幼少期に虐待を受けることが高齢期の医療費にまで影響する可能性が示された。児童虐待を未然に防ぐことや、早期に発見・介入することが重要だと考えられる。さらに、虐待を減らす取り組みは個人だけでなく社会全体の負担軽減にもつながるのではないか」とまとめている。

[2020210/HealthDayNews]



CRISPRによりがんと闘う免疫細胞を作り出すことに成功

CRISPR/Cas9と呼ばれる遺伝子編集技術によって、腫瘍を攻撃する“デザイナー”免疫細胞を作り出すことに成功したとする研究結果を、米ペンシルベニア大学のCarl June氏らが「Science26日オンライン版で報告した。米国でCRISPR/Cas9による遺伝子編集技術をヒトで試した初めての研究で、June 氏らは「がん治療でのCRISPR/Cas9利用に向けた第一歩」としている。

 CRISPR/Cas9は細胞内のDNAの一部を切り取ること、損傷遺伝子の修復、置換などを可能にする技術である。科学者たちは長年、CRISPR/Cas9の開発と研究を実験室で行ってきた。その目的の1つは、さまざまな疾患の根底にある遺伝学の解明を進めることにあるが、ゴールは、ある特定の遺伝子変異に起因する疾患を治療すること、またがんに対してなら、遺伝子操作により免疫システムを武装させてがん細胞を攻撃させることである。

 今回の研究の目的は、この技術の安全性と実現可能性を検証することだった。研究では、多発性骨髄腫などのがん患者3人からT細胞を取り出し、CRISPR/Cas9を利用して3つの遺伝子(TRACTRBCPDCD1)を除去した。次いで、レンチウイルスを使って、がん特異的な合成T細胞受容体を導入した。この受容体を持つT細胞は、がん細胞が持つNY-ESO-1と呼ばれる抗原を標的にするようになる。その後、このT細胞を患者の体内に戻した。

 過去の研究では、こうした改変細胞の生存期間は概して1週間足らずと報告されているが、この研究では、最長で9カ月間、生き延びていることが確認された。また、T細胞を患者の体内に戻してから数カ月後に患者の血液を採取し、T細胞を分離したところ、これらの細胞にがん細胞を死滅させる力がまだ残っていることがシャーレの中で確認されたという。ただ、3人ともがんが進行し、一人は死亡、残る2人は別の治療を受けている。

 今回の報告を受けて、米ニューヨーク大学ランゴン・ヘルス、パールマッターがんセンターのCatherine Diefenbach氏は、「今回報告されたのは、がん細胞を認識できるようにT細胞を操作する新たな技術であり、大変興味深い。ただし、この研究で分かったのは、患者にこれらの細胞を注入することが可能であり、健康への悪影響も見られなかったということだけだ」と指摘している。

 米国では既に、一部の血液がんに対し、CAR-T細胞療法と呼ばれるT細胞を利用した治療が承認されている。この治療では、患者から取り出したT細胞に遺伝子操作を加え、細胞表面に特定の受容体を発現させて体内に戻す。これらの受容体の働きにより、T細胞は腫瘍を発見・破壊する。ただ、現状では、CAR-T細胞が効果を示すのは血液がんに対してのみであり、固形がんではがん細胞に対する免疫反応が働かない。

 今回、June氏らはCRISPR/Cas9によってT細胞が本来持っている2つの受容体と、免疫チェックポイントとしてT細胞の働きを阻害するPD-1と呼ばれるタンパク質の除去という、3つの遺伝子編集を実施した。今回の研究には関与していない、米モフィットがんセンターのJose Conejo-Garcia氏は、PD-1の除去を可能とする技術によって、これまでにない「スーパーT細胞」を作り出し、固形がんが免疫による攻撃をかわしてしまう問題を克服できる可能性があるとの見方を示している。

 ただし、どの専門家も今回の研究では複数の遺伝子編集が可能であること、改変したT細胞が患者の体内で生き続けること、実験室でこれらのT細胞ががん細胞を死滅させたことが示されたに過ぎないと指摘。また、遺伝子編集による重大な副作用は認められなかったが、Diefenbach氏は「短期および長期の安全性について検証すべき」としている。なお、June氏は、この治療が承認を得られるような段階になるまであと10年はかかるとの予測を示している。

[202026/HealthDayNews]