肺がん患者の多くが推奨される治療を受けていない

米国では、肺がん患者のうち推奨される最低限の治療を受けているのは10人当たり6人にとどまることが、44万件以上の肺がん症例を対象に行った解析により示された。ガイドラインで推奨されている治療を受けるか否かには人種や年齢との関連が認められ、黒人と高齢者で治療を受ける確率が低かったという。詳細は、「Annals of the American Thoracic Society111日オンライン版に掲載された。

 肺がん治療には、外科手術、化学療法、放射線療法などがあり、NCCNNational Comprehensive Cancer Network)作成のガイドラインでは、肺がんの種類とステージによってさまざまな治療の組み合わせが推奨されている。治療によって余命を延ばせるとともに、QOL(生活の質)を向上させることもできる。

 肺がん治療のアドヒアランスには、人種・民族と年齢により差があることが過去の研究において指摘されている。今回、米ミシガン大学呼吸器科医であるDouglas Arenberg氏は、こうした人種や年齢による差が、患者や腫瘍、医療提供者の特徴を考慮しても認められるのか否かを調べるため、全米がんデータベース(NCDB)で2010年から2014年に診断された441,812件の肺がん症例のレビューを実施した。

 その結果、ガイドラインに則った治療を受けている患者は全体の62.1%であり、治療をいっさい受けていない患者は21.6%、残りの患者は推奨よりも低強度の治療を受けていることが明らかになった。また、ガイドラインに則った治療を受けている割合が最も低いのは、進行非小細胞肺がん患者であることも分かった。

 そのほか、黒人の患者が最低限の治療を受ける率は、白人患者と比べると78%であった。一方、80歳以上の患者が最低限の治療を受ける率は、50歳未満の患者と比べると12%であった。

 こうした結果を受けArenberg氏は、「大いに憂慮すべき結果だ。しかし、これまでの研究がそうだったように、医療格差があることを示すことはできても、それがなくならない理由を解明することはそれほど簡単なことではない」と話す。また、例えば、病状が重すぎてより積極的な治療を施せないケースがあることなどを踏まえ、「低強度の治療の方が医学的に適切ということもある。しかし、今回利用したNCDBのデータベースには、患者の好みや希望、あるいは病勢といったことに関する情報は含まれていない」として、今回の研究の限界についても述べている。

 その上で、研究グループは、全ての肺がん患者が確実に最善の治療を受けられるようにするための第一歩は、治療を受けられないリスクがある層を特定することだと結論付けている。

[2019117/HealthDayNews]

1日10分の運動でも認知機能の維持につながる可能性

1日わずか10分の運動で認知機能を良好に維持できる可能性が、フラミンガム研究から報告された。米ボストン大学のNicole Spartano氏らが発表した研究で、詳細は「Alzheimer’s & DementiaTranslational Research & Clinical Interventions10月号に報告された。

 フラミンガム研究は、米マサチューセッツ州で1948年から行われている大規模疫学研究。当初からの参加者に加えその子孫も対象とし、健康状態や生活習慣について現在も追跡が続けられている。Spartano氏らは同研究の参加者2,770人を対象に、中年(平均年齢48.7±8.6歳)および高齢(同71.3±7.6歳)のグループ別に身体活動量や強度と認知機能の関係を検討した。

 その結果、いずれのグループも1日約1020分の中等度~高強度の身体活動を行っている人で、良好な認知機能との関連が認められた。また、中年グループでは、わずか10分の中等度~高強度の身体活動を行っている人でも言語記憶が良好だった。高齢グループでは、身体活動の強度ではなく、総活動量が認知機能の高さとより強く関係していた。

 身体活動と認知機能の関連を調査した先行研究と今回の研究が異なる点として、身体活動を正確性に欠ける自己申告で評価するのではなく、加速度計を用いて正確さを期した点が挙げられる。しかし観察研究であるため、身体活動と認知機能の因果関係の解明に踏み込んだ検討はできていない。ただしSpartano氏は、「今回の研究結果は運動によってアルツハイマー病などの認知症を抑制できるかどうかを示すものではないが、身体活動が早期の認知機能低下の予防に役立つことを示唆するものだ」と述べている。

 もう1つ重要なポイントとして、同氏は「今回の知見は、米国保健福祉省(HHS)の運動に関するガイドラインの推奨を満たすのが難しい、あるいは不可能と思われる高齢者にとって、特に重要だ」と指摘している。ちなみに同ガイドラインでは、1週間に150分以上の中等度の有酸素運動を推奨している。

 この点に関しては今回の研究には関与していない研究者からも前向きに評価するコメントが寄せられている。例えば米タフツ医療センターのRichard Dupee氏は「1週間に150分の運動を行うことができない高齢者を励ます知見だ」としている。また本論文の査読を担当した米スポールディング・リハビリテーション病院のRoss Zafonte氏によると、「認知機能を保つには、人付き合いや社会参加を続けることも重要」という。

 身体活動と認知機能の関連を巡る今後の研究の方向性としてSpartano氏は、「認知機能を維持・向上させるのに各年齢層でどの程度の運動量が適切なのかなどがまだ明らかでない」と指摘。また、フラミンガム研究の参加者はおもに白人の米国人であるため、ほかの人種や民族でも同様の結果が得られるかどうか検討する必要があると述べている。

[2019116/HealthDayNews]

増える梅毒妊娠症例

国立感染症研究所が、今年1月から半年の間に医療機関を通じて報告された女性梅毒患者のデータを分析したところ、約1割が妊娠症例であることがわかった。わが国では、2014年ごろから男女間における梅毒感染報告が増え、それと並行して母子感染による先天梅毒の報告数も増加傾向にある。こうした状況を背景に、梅毒妊娠症例に着目し、国として初めて実態把握を行ったもの。分析を行った感染研感染症疫学センター・主任研究官の山岸 拓也氏は、「かなり憂慮する状況。治療可能疾患であることを患者に伝え、子供への感染リスクをできる限り排除していかなければならない」と話す。

早期発見と適切な抗菌薬治療で母子感染を回避

 梅毒は、すべての医師が診療から7日以内に届け出を求められている全数報告対象疾患であり、国の感染症発生動向調査によると、2013年以降、20代を中心に女性の梅毒報告数および先天梅毒報告数が増え続けている。

 先天梅毒はTreponema pallidumが母子伝播することで発生し、母体が無治療の場合には40%の児が先天梅毒になるとされている。一方、梅毒感染妊婦に対しては、適切に診断され、抗菌薬治療を行うことで先天梅毒の発生を予防することが可能である。したがって、いかに早期発見と適切な治療に至るかが梅毒の母子感染の防止のカギになる。同時に、梅毒の感染経路を明確にすることも肝要である。

 感染症発生動向調査では、今年11日から梅毒の届け出様式が変更され、妊娠の有無や、直近6ヵ月以内の性風俗産業の従事歴の有無が、新たに項目として追加された。感染研感染症疫学センターの取りまとめによると、この期間に届け出られた女性梅毒症例は1,117例であり、このうち「妊娠あり」とされた症例は106例であった。年齢別では、15-19歳が10例(9%)、20-24歳が38例(36%)、25-29歳が30例(28%)、30-34歳が20例(19%)、35-39歳が7例(7%)、40-44歳が1例(1%)であった。病型別では、早期顕症I期が5例(5%)、早期顕症II期が25例(24%)、無症候が76例(72%)であった。妊娠週数は、19週までが74例(74%)、20週以降が26例(26%)であった(残り6例は不明)。また「妊娠あり」症例のうち、性風俗産業従事歴については、「あり」が5例(8%)、「なし」が56例(92%)であった(残り45例は不明)。

性産業従事歴なく男性パートナー由来も多数、その背景は

 これらの数字から見えてくる傾向がある。山岸氏によると、妊娠症例は性風俗産業従事歴のない20代後半から30代前半の女性が多く、感染源が男性パートナーである可能性が示唆されるということだ。これは、妊婦における感染が、同性間性交渉による感染および性産業従事歴による不特定多数の性交渉による従来の感染経路とは傾向が異なることを示している。

 とはいえ、今回の取りまとめでは、「妊娠あり」の106症例のうち、半数近い45例については従事歴が明らかになっていない。山岸氏は、「従事歴なし」の場合は回答できるが、「従事歴あり」の人ほど回答をためらうケースが多いのでないかと指摘する。また、近年の性産業の多様化もあるという。つまり、実態のある店舗で報酬を取りながら性活動を行うのが必ずしも性産業従事者ではないということだ。たとえば、無店舗・派遣型のデリバリーヘルスや、出会い系サイトやSNSを介し、困った時だけ金銭と引き換えに性交渉に及ぶ“個人稼業”の人たちは、どこまで自身をセックスワーカーであると自覚しているだろうか。こうした背景を考えると、「不明」45例の実情が自ずと見えてくる。いずれにせよ、「性産業に対するハードルの低下と裾野の広がりも、梅毒症例増加の背景にあるとみられる」と山岸氏は話す。

憂慮する状況に実効力のある対策を

 今回の取りまとめでは、7割以上が無症候であったことから、妊婦健診が有効に機能していることが考えられるが、妊娠20週以上に診断された症例も26例(26%)認めた。この中には、未婚や経済的事情などで妊婦健診を受けないまま週数が経過した結果、判明が遅れたケースもあるが、妊娠20週を超えた段階で新たに感染することも考えられるという。つまり、妊娠が安定期に入って性交渉を再開した際、何らかの経緯で男性パートナーが保有する梅毒が感染するケースである。

 こうしたことを鑑み、先天梅毒発生リスクに関連した背景要因を有する妊婦診療においては、妊娠中に疑われる症状が見られたら速やかに主治医に相談するよう促したり、妊娠中であっても避妊具を使用し、より一層慎重な性交渉を行うよう患者に指導したりする必要があるという。あるいは、妊娠初期に行われるスクリーニング検査を、妊娠中期および後期に行うことも、発見の機会を増やすために有効かもしれない。

 一方、実数としては不明であるものの、これまでの調査で、梅毒感染がわかった段階で妊娠中絶を選択する妊婦もいるという。「適切な診断と治療によって、生まれてくる子どもの重篤な障害を回避できることを妊婦患者に伝え、性急な判断で中絶しないよう医療者が働きかける必要がある」(山岸氏)。

 繰り返しになるが、梅毒の母子感染は診断と治療により防ぐことが可能である。冒頭に山岸氏が語ったような「かなり憂慮する状況」のただ中にあるのだとすれば、メディアなどが性産業従事者/利用者にモラルを社会的メッセージとして説くことも大事だが、医療者により実効性のある対策を講じていただきたい。

食物繊維とヨーグルト、肺がんの発症リスクを低下?

いわゆる善玉菌の栄養源である「プレバイオティクス」と、善玉菌を含む食品である「プロバイオティクス」の摂取は、いずれも有益なのか。米国・ヴァンダービルト大学医療センターのJae Jeong Yang氏らは、代表的な食品成分として、プレバイオティクスの「食物繊維」と、プロバイオティクスの「ヨーグルト」の摂取と肺がんリスクとの関連を調べた。欧米およびアジアで実施された前向きコホート研究10件のプール解析の結果、食物繊維とヨーグルトの摂取は、既知のリスク因子調整後および非喫煙者において、肺がんリスクの低下と関連することが示されたという。食物繊維もヨーグルトも、腸内微生物叢および代謝経路の調節を介してさまざまな健康上の有益性をもたらすことは知られているが、肺がんリスクとの関連についてはこれまで十分に検討されていなかった。結果について著者は、「プレバイオティクスとプロバイオティクスの肺がん発症に対する潜在的な予防機能を示すものであった」とまとめている。JAMA Oncology誌オンライン版20191024日号掲載の報告。

 研究グループは、欧米およびアジアで実施された前向きコホート研究10件、合計1445,850例(成人)について、201711月~20192月にデータ解析を行った。

 主要評価項目は、肺がん(腺がん、扁平上皮がん、小細胞がんの組織型に分類)の発症。食物繊維ならびにヨーグルトの摂取量は検証済みの調査票で測定し、参加者個々のデータを用いて食物繊維ならびにヨーグルトの摂取と肺がんリスクとの関連について、Cox回帰分析により各コホートで、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推算するとともに、ランダム効果メタ分析により統合した。

 主な結果は以下のとおり。

1445,850例の内訳は、男性627,988例(平均年齢:57.9歳)、女性817,862例(54.8歳)であった。
・追跡期間中央値8.6年における肺がんの発症記録は、18,822件であった。
・食物繊維の摂取量が最低五分位群に対する最高五分位群のHR0.8395CI0.760.91)、ヨーグルトの摂取ゼロ群に対する同最高群のHR0.8195CI0.760.87)であった。
・食物繊維またはヨーグルトの摂取と肺がんとの関連は、非喫煙者において顕著であり、性別、人種/民族および腫瘍組織型にかかわらず一貫して観察された。
・食物繊維とヨーグルトの摂取を合わせて検討した場合、食物繊維もヨーグルトも摂取量が最も高い群では、食物繊維の摂取量が最も少なくヨーグルトをまったく摂取しない群に比べ、肺がんのリスクが30%以上低下し(全体のHR0.6795CI0.610.73]、非喫煙者のHR0.6995CI0.540.89])、潜在的な相乗効果が示唆された。

片頭痛に対するubrogepantの痛み消失効果は?

前兆症状の有無にかかわらず、片頭痛に対してubrogepant投与はプラセボ投与と比べて、2時間後に痛みが消失した人の割合は有意に高率であり、最もつらい片頭痛関連の症状がなかった人の割合は有意に低率だった。米国・メイヨー・クリニックのDavid W. Dodick氏らが、1,672例を対象に行った無作為化二重盲検プラセボ対照パラレル群間比較試験の結果で、NEJM2019125日号で発表した。ubrogepantは、経口小分子カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬で、急性期の片頭痛治療に有効であることが示されていた。

ubrogepant 50mg100mg vs.プラセボの有効性を評価

 研究グループは、前兆症状の有無にかかわらず片頭痛を有する成人1,672例を対象に、ubrogepantの有効性、安全性、副作用プロファイルを評価する試験を行った。

 被験者を無作為に1113群に分け、プラセボ(559例)、ubrogepant 50mg556例)、ubrogepant 100mg557例)をそれぞれ単回投与した。

 有効性の主要エンドポイントは2つで、初回投与後2時間時点での痛みの消失と、最もつらい片頭痛関連症状がないこととした。副次エンドポイントは、痛みの緩和(投与後2時間時点)、痛みが緩和した状態の持続(224時間)、痛みのない状態の持続(224時間)、2時間時点で片頭痛関連の症状(羞明、音過敏、悪心)がないこととした。

2時間後の痛み消失、プラセボ群12%に対し、ubrogepant19.221.2

 投与後2時間時点で痛みが消失したのは、プラセボ群11.8%に対し、ubrogepant 50mg19.2%(多様性補正後のp0.002、)、ubrogepant 100mg21.2%(同p0.001)と、いずれのubrogepant群とも有意に高率だった。

 投与後2時間時点で、最もつらい片頭痛関連の症状がなかった人の割合も、プラセボ群27.8%に対し、ubrogepant 50mg38.6%、ubrogepant 100mg37.7%と有意に高率だった(いずれも、p0.002)。

 初回投与後、または任意による2回目投与後48時間以内の有害事象発生率は、プラセボ群12.8%、ubrogepant 50mg9.4%、ubrogepant 100mg16.3%だった。なかでも発現が高頻度だったのは、悪心、傾眠、口内乾燥で(0.44.1%)、これらはとくにubrogepant 100mg群での発現頻度が高かった(2.14.1%)。

 両ubrogepant群で投与後30日以内に発生した重篤な有害事象としては、虫垂炎、自然流産、心嚢液貯留、痙攣発作が報告されたが、いずれも投与後48時間以内の発生報告例はなかった。

鉢植え植物は室内の空気をきれいにする?

鉢植え植物に室内の空気の質を良くする効果は期待できないようだ。一般に空気清浄効果があると考えられている観葉植物だが、自宅やオフィスの空気の質を良くするには、室内に植物を置くよりも自然換気を行う方がはるかに高い効果が得られることが、米ドレクセル大学建築環境工学准教授のMichael Waring氏らによる研究で示された。この研究結果は、「Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology116日オンライン版に掲載された。

 今回の研究は、過去30年間に実施された、鉢植え植物が室内の揮発性有機化合物(VOC)量に及ぼす影響を検討した12件の研究結果を分析したもの。Waring氏らは、これらの研究から得られたデータをクリーンエア供給率(CARD)と呼ばれる空気清浄機の性能を表す指標に換算した。

 分析の結果、自然換気か換気装置によるものかにかかわらず、換気によって室内のVOC濃度が低下する速度は、植物が空気中からVOCを除去する速度を大幅に上回っていることが明らかになった。

 結果を受けてWaring氏は、「鉢植え植物が部屋の空気をきれいにするというのは、かねてより信じられてきたよくある誤解の1つだ。植物に優れた力があるのは確かだが、自宅やオフィスの空気の質に効果をもたらすほど素早く室内の空気を清浄化することはできない」と述べている。

 研究チームによると、鉢植え植物には空気清浄効果があるという誤解は、1989年にNASAが発表した「植物は発がん性化学物質を空気から除去するのに役立つ可能性がある」とする研究結果がきっかけで広まったのではないかという。しかし、この研究でもその他の同様の研究でも、実験が行われたのは締め切った空間であり、実際のオフィスや家庭の環境とは共通点がほとんどないものであった。

 また、これらの研究では植物がVOC濃度を徐々に低下させることがデータとして示されたが、自然換気が行われる室内や換気設備の備わった室内に実際に植物を置いた場合はどうなるのかまでは検討されていなかった。研究チームが計算したところ、建物の空気処理システムによる空気清浄能力、あるいは単に家の窓をいくつか開けるだけの換気に匹敵する効果を鉢植え植物から得るには、床面積1平方メートル当たり1001,000鉢が必要であるという。

 Waring氏は「このことは、科学的知見がいかに誤解につながりやすいかを示す一例である。それと同時に、科学研究において、身の回りで実際に起こっていることの理解につながる確かなデータに近づくためには、常に結果に疑問を持ち、検討を重ねていく必要があることを示す好例でもある」と話している。

[20191112/HealthDayNews]

スタチンは高齢者の脳に有害ではない?

コレステロール低下薬のスタチン系薬(以下、スタチン)が思考力や記憶力の低下をもたらすのではないかという広く行き渡った懸念には根拠がないことを示唆する新たな研究が、セント・ビンセント病院(オーストラリア)のKatherine Samaras氏らにより発表された。研究では、認知症リスクのある一部の人では、アトルバスタチン(商品名リピトール)やロスバスタチン(同クレストール)などのスタチンにより記憶力や認知機能が改善する可能性も示された。詳細は「Journal of the American College of Cardiology1118日オンライン版に発表された。

 心疾患や脂質異常症などの治療でスタチンを使用している人は何百万人もいる。しかし、スタチンが記憶力の低下をもたらすことを示唆する複数の研究結果が報告されたことを受け、米食品医薬品局(FDA)は2012年、全てのスタチンに対し黒枠警告の表示を指示した。

 Samaras氏らは今回、高齢者の認知機能に関する研究(Sydney Memory and Aging Study)に参加した7090歳の男女1,037人のデータを用いて、スタチンの使用と記憶力や認知機能の低下との関連を調べる研究を実施した。対象者のうち約600人がスタチンを平均9年にわたり使用していた。

 研究開始時に全ての参加者が情報処理速度や言語能力などの記憶力や認知機能の検査を受けていたが、スタチンの使用者と非使用者の間に差は認められなかった。また、一部の参加者はMRI検査で脳容積を測定したが、2年にわたってスタチンの使用者と非使用者の間に脳容積の有意差は認められなかった。さらに、6年にわたってスタチンの使用者と非使用者の間に記憶力や認知機能の有意差は認められなかった。

 一方、研究期間中にスタチンの使用を開始した99人では、スタチンは記憶力低下の抑制に関連していることが明らかになった。また、予測通りの結果ではあるが、心疾患患者ではスタチン使用により心筋梗塞リスクが低下していた。さらに、心疾患患者では、スタチンの非使用者と比べて使用者で記憶力の低下が緩やかであることも示された。

 そのほか、心疾患や糖尿病など認知症のリスク因子を有する高齢者において、スタチンの非使用者と比べて使用者では認知機能低下の進行が遅いことも分かった。また、アルツハイマー病リスクを高める因子であるAPOE4遺伝子を有する高齢者においても、スタチンは認知機能の低下を有意に遅らせることが示された。なお、心疾患のない高齢者における記憶力の低下率は、スタチンの使用者と非使用者で同程度であった。

 こうした結果を受けSamaras氏は、「高齢者の大規模集団において、6年にわたって記憶力を含むさまざまな側面で認知機能の低下は見られなかった」と結論付けている。ただし、同氏らは、この研究が観察研究であることを強調。「強い関連が認められても決定的な結果とみなすことはできない」として慎重な解釈を求めた上で、「スタチンを使用している人で、同薬が記憶力や認知機能に悪影響を与えるのではないかと不安に感じている人がいれば、かかりつけ医に相談すべきだ。ただ、全般的に今回の研究では極めて心強い結果が得られた」と話している。

 この研究の付随論評の著者の一人で、米ウェイル・コーネル・メディシンのCostantino Iadecola氏は、脳は80%が脂質であるため、脂質の変化に非常に敏感であるとし、「コレステロールを調節すれば脳に影響が及ぶのは驚くべきことではない」と話す。ただし、同氏は「スタチンの認知機能に対する保護作用に関しては、さらなる研究で検証する必要がある」との見解を示している。

[20191118/HealthDayNews]



縫合糸に代わる「両面テープ」を開発

手術などでできた傷口をふさぐ際、針や糸を使わず両面テープを貼るだけでよい時代が来るかもしれない――。米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学・土木環境工学准教授のXuanhe Zhao氏らは、傷口の縫合処置に用いる医療用両面テープを開発。動物実験で、テープを貼ると傷口の組織が数秒で接着するという有望な結果が得られたと「Nature1030日号に報告した。この両面テープは、縫合糸に取って代わることが期待されるという。

 Zhao氏によれば、世界で行われる外科手術は年間23000万件以上に上り、その多くでは傷口を縫合糸で縫い合わせる処置が施されているという。しかし、同氏は「針と糸を用いて縫合すると組織にストレスを与えるほか、感染症や痛み、瘢痕の原因となることがある」と指摘。「われわれは、縫合糸とは根本的に異なるアプローチを提案している」と説明している。

 Zhao氏らが開発した両面テープは、生体高分子(ゼラチンまたはキトサン)とポリアクリル酸から成るもので、クモが濡れた状態の獲物を捕らえるのに用いる粘着性物質に着想を得た。同氏らがマウスやラット、ブタの組織を使った実験を行った結果、傷口に両面テープを貼ってから5秒以内に、肺や腸などの組織はしっかりと接着することが分かった。

 外科用縫合糸は、一部の組織の縫合には適さず、患者によっては合併症を引き起こすこともあるという。今回の研究結果を踏まえ、Zhao氏らは「この両面テープが縫合糸に代用される日が来るかもしれない」と期待を寄せる。

 また、従来の液状組織接着剤は接着するまでに数分かかり、体の他の部位に液が漏れるといったデメリットがあったが、この両面テープを使うと、組織ははるかに速く接着する。さらに、実験の結果、両面テープは、心臓などの臓器に医療機器を植え込む際にも活用できる可能性も示された。

 論文の筆頭著者を務めた同大学のHyunwoo Yuk氏は「私たちが開発した両面テープは、組織にダメージを与えたり、二次性の合併症を引き起こしたりすることなく、さまざまな部位で利用できる。そのため、植え込み型心電計や薬物送達デバイスの適用を広げ、より簡便かつ効率的な方法でこれらを使えるようになるだろう」と述べている。

 Zhao氏らは今後も、動物実験を続けていくとともに、医師との共同研究でこの両面テープの新たな可能性を探っていく予定だ。ただし、基礎研究で得られた結果は、ヒトに適用できるとは限らない点に注意が必要だとしている。

[20191031/HealthDayNews]

血液1滴で13種のがん検出、2時間以内に99%の精度

東芝は1125日、血液中のマイクロRNAを使ったがん検出技術を開発したと発表した。同社によると、独自のマイクロRNA検出技術を使った健康診断などの血液検査により、生存率の高いStage 0の段階でがんの有無を識別することが期待できるという。早期の社会実装に向け、来年から実証試験を進めていく。

 リキッドバイオプシーの解析対象となるマイクロRNAを巡っては、2014年に「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」が始動。国立がん研究センターや国立長寿医療研究センターが保有するバイオバンクを活用し、膨大な患者血清などの検体を臨床情報と紐づけて解析。血中マイクロRNAをマーカーとした検査システムの開発が進んでいる。この研究成果をベースに、国内メーカー4社が、日本人に多い13種のがんについて、血液検体から全自動で検出するための機器や検査用試薬、測定器キットなどの開発に取り組んでいる最中だ。

 東芝も本プロジェクトに当初より参画。東京医科大学と国立がん研究センターとの共同研究において、このほど膵臓がんや乳がんなど13種類のがん患者と健常者について、独自の電気化学的なマイクロRNA検出技術を活用し、2時間以内に99%の精度で網羅的に識別することに成功した。この中には、Stage 0の検体も含まれていたという。本研究により、13がん種いずれかのがんの有無について、簡便かつ高精度に検出するスクリーニング検査の実現が期待される。独自のマイクロRNAチップと専用の小型検査装置を用いることで、検査時間を2時間以内に短縮し、即日検査も可能になるという。

頭痛の裏に失明リスクのある眼疾患/日本頭痛学会

眼の痛みがあったとしても診断時にその訴えがあるとは限らず、併存疾患の多い高齢者ではとくに鑑別が困難だが、頭痛診療で頭に留めておきたい眼疾患がある。第47回日本頭痛学会(111516日)の「頭痛診療のクロストーク・連携」と題したワークショップで、川崎医科大学附属病院眼科の家木 良彰氏が頭痛診療と眼疾患について講演した。

長期間高眼圧が続くと、視神経のダメージは不可逆

 はじめに家木氏は、突然の嘔吐と頭痛を訴え受診した80代女性の症例を紹介した。精査加療のため入院し、他疾患による頭痛として退院。退院後も吐き気、頭痛、眼痛が持続するため、10日以上経過後に初めて眼科を受診した。眼圧を測定したところ右眼圧60mmHgで、急性閉塞隅角緑内障と診断。同日中に白内障手術が施行された。

 翌日には眼圧が正常化し、頭痛・眼痛・吐き気は改善したが、視力は光覚弁(暗室にて眼前で照明を点滅させ明暗を弁別できる視力で、失明に含まれる)となった。高眼圧が続くことによる視神経のダメージは不可逆であり、「もっと早い眼科受診で失明を回避できた可能性がある。このような症例は、12年に1例くらいの頻度で残念ながら遭遇することがある」と同氏。一方で、最初の受診時に眼の痛みや不調に関する訴えがない場合は、眼科疾患の診断が難しいと指摘した。

緑内障のなかでも特殊な病態、急性閉塞隅角緑内障の所見とは

 緑内障患者の主な特徴としては、眼圧が高い(ただし眼圧が正常である正常眼圧緑内障患者は日本では多い)、年齢が高い(40歳以上で要注意)、近視が強い、初期には自覚症状がほとんどない、などが挙げられる。40歳以上の日本人における緑内障有病率は約5%とされ、日本人の失明原因の第1位となっている。

 このうち、急性閉塞隅角緑内障の病態は少し特殊である。高度眼圧上昇(多くは40mmHg以上)がみられ、症状としては眼痛・頭痛・悪心・嘔吐などがある。緑内障の他の病型と異なり近視よりも遠視の人がなりやすく、虹輪視(電球などを見たときに、その周囲に光の輪のようなものが見える)や霧視(かすみがかって見える)、高度の視力低下がみられる。しかし、とくに高齢者では患者側から自主的にそれらの申告がないこともあり、内科的あるいは脳外科的疾患の誤診につながってしまうことがあるという。

 家木氏は、急性閉塞隅角緑内障の鑑別の参考に、近視の場合はほとんどが開放隅角、白内障手術が済んでいたら開放隅角、遠視で背の低い高齢女性に閉塞隅角が多い、といった情報を紹介。診断は眼圧を測定すれば可能であり、たとえ結果が眼科と関係なかったとしても除外診断には役立つため、疑わしい場合は積極的に眼科医にコンサルトしてほしいと話して講演を締めくくった。